続・140字SSにチャレンジした記録 - 10/10

 未練がましく縋り付くのは性分ではなかったものの、それでも断ち切れない想いがある。何よりシュウは簡単にマサキの感触を忘れられそうにはなかった。指を通した髪の柔らかさ、手を滑らせた肌の温かさ、重ねた口唇のなめかましさ……別離わかれの瞬間を迎えて尚、まざまざと身体に蘇ってくる記憶の数々。それをこれからひとつひとつ忘却していかなければならないのだ。そんなのは無理だ。シュウは宙を仰いだ。瞳のきわに溜まった涙が零れ落ちないように、一点を見据える。今日も色鮮やかなラングランの空。目の前に広がる景色は、まるで良く出来た書割のようだ。現実味に乏しい世界を、けれどもシュウは生きていかなければならない……そうして黙して暫く。静かに自らの涙を封じ込めたシュウは、これで最後ですから。と、目の前に横たわるその亡骸を抱き締める許可を彼の仲間たちに願い出る。

140字SSお題ったー
kyoさんは【これで最後だから】をお題にして、140字以内でSSを書いてください。