お題:命果てるまで
大地を踏みしめるようにして、背中合わせに立っていた。逃げ場のない戦場で敵方の物量に負けたマサキは、機体の稼働ラインを超えた損壊を受けたサイバスターを自己回復能力で回復させ、戦線に復帰させる為に時間を稼ごうとしていた。
「だからって、てめえが付き合う必要はねえんだがな」
マサキは背後にて、死角を補うように立っているシュウに話しかけた。
不条理な性能を持つグランゾンは、傍目にしている分には、余裕で戦列に加わっていられるだけの状態にあるように思える。だのに彼は自らの愛機を降りて、マサキとともに生身で戦うのだという。珍しくも剣を手に携えて、マサキの目の前に姿を現わしてみせた男は、マサキの言葉にこう答えてきた。
「グランゾンのダメージも結構なものですよ。少しは休ませてやらないとなりません」
優しさの表し方が不器用な男なのだ。素直に自らの本心を口に出来ない彼は、だから平気で嘘を吐く。昔はわからなかったことがわかるようになったマサキは、変わらぬシュウの性質が、ただただ可笑しく感じられて、生身で魔装機に囲まれているという窮地にありながら笑わずにいられなかった。
「慎重に事を運びたがるてめえらしい」
「あなたが大味過ぎるのでしょう。生身で魔装機と戦おうなど無謀に過ぎる。尤も、剣聖ランドールなら出来たこと。そういった意味では、あなたも少しは稀代の英雄である彼に近付けているのかも知れません」
「何でてめえはそうやって、余計な口を利くかなあ」
瞬間、四方を囲う魔装機より、マサキたちを目がけて対人用武器が射出される。マサキは戦いの始まりを肌で感じながら、剣を振った。剣圧で魔装機の攻撃を防ぐ為には、相当の技術と体力と攻撃力が必要となる。かつての自分にはなかったそれらの力が今の自分には備わっている。圧縮されたエネルギーを弾き、弾を斬る。その合間を縫って、魔装機にダメージを与えるべく剣撃を放つ。空気が渦を巻き、それは荒れ狂う竜巻となって敵方の魔装機に襲いかかった。
マサキの死角で動いているシュウがどうしているのか、マサキにはその気配しか察することは出来なかったが、数多の戦場をともに駆け抜けた相手。その戦い方は、わかり過ぎる程にわかっている。恐らくは幾つもの理を使いこなしてみせる彼のこと。魔術に剣技を併せて、マサキの剣撃に比類する攻撃を繰り出していることだろう。
そうして繰り返し、繰り返し、敵方の魔装機の攻撃を防ぎながら攻撃を放ち続ける。ふと気付けば、再びシュウと背中合わせに。減らしても湧いて出る魔装機の群れに、さしもの彼も疲れを感じているようだ。
「グランゾンに戻ったらどうだ」
「御冗談を。あなたが退かない限りは私もここにいますよ。先に行かれ過ぎるのは面白くないのでね」
「負けず嫌いにも限度があるんだよ、お前」
口ではそう彼の無茶を窘めるように言葉を吐きながら、けれどもマサキはひとりでこの過酷な戦いに挑まずに済んでいることに、限りない安心感を感じながら。きっとお互い長生きは出来ねえよな。そう云って、再びの攻撃を敵機に加えに行くべく、剣を振り上げて笑った。
使用した診断メーカー:140文字で書くお題ったー