続々・140字SSにチャレンジした記録 - 2/9

「明日世界が滅びるとしたら、お前は何をして過ごす?」
 それまで読書に耽溺しているようにしか見えなかった男は、マサキの問いに顔を上げるとこう答えた。
「あなたと同じことですよ、マサキ」
「戦う、か」
 当然ですね。深く頷いたシュウの口元に浮かぶ薄い笑み。常に冷静沈着な男は、いざ有事となると好戦的な一面を覗かせる。そうでなければあの鉄騎を操れはしまいとはいえ、マサキにはそれが意外にも映ったものだ。
「ただ世界の終わりを黙って待つくらいなら、少しでも運命を変える為に戦いますね。それがどういった種類の災厄であろうとも。あなたもそうでしょう、マサキ」
「自然災害にまで勝てるとは思ってねえよ」
「やりようは幾らでもあると思いますがね」
 マサキとは頭の出来が違うだけはある。さらりと云ってのけると、あなたは? とマサキに逆に問い返してきた。
「魔装機神では及ばぬ災厄が起こり、世界が明日滅ぶと決まったとしたら、その瞬間に何をしますか」
「そうだな……」
 思い浮かぶことは幾らでもあった。仲間と騒いで過ごす。義妹とふたりきりで過ごす。普段通りの日常を過ごして、運命を静かに受け入れるのもいい。けれども――マサキは不敵に笑った。今では叶えられなくなってしまった望みが、ひとつだけ胸の奥で燻ぶっている。
「お前と決着を付ける」
 そう口にした瞬間のシュウの表情! 彼はその紫水晶にも似た瞳を冥く揺らめかせながら、凄絶な笑みを浮かべてみせるではないか。ぞくり、とマサキの背中に怖気が走る。次いで襲いかかる手足の震え。それが武者震いだとマサキが気付くまでには、暫くの時間が必要だった。
 強大な、斃すべき敵がそこにいる。
 サーヴァ=ヴォルクルスはないものを生み出したのではない。あるものを引き出してみせただけだ。
 いつかシュウは鶏が先か卵が先かと尋ねたマサキにこう答えてみせたことがある。鶏が先・・・だと。無から有は生まれない。シュウの説明を聞いたマサキは釈然としない気持ちになったものだったが、今ならわかる。真理が形を取って現れたのを目の当たりにしたマサキは、湧き上がってくる悦びを抑えきれずにいた。
 シュウは忘れてはいないのだ。自身の中に眠っている残虐な一面を。
 絡み合う視線。今尚互いに引き摺っている感情が伝い合った気がした。刹那、シュウの手がするりとマサキのうなじに回された。そうしてそうっとマサキの頭を引き寄せたシュウは、ぞっとするほど美しい声で、その時は手加減しませんよ、マサキ。そう耳元で囁きかけてきた。

140文字SSのお題
貴方はシュウマサで『終末の、過ごし方。』をお題にして140文字SSを書いてください。