140字SSにチャレンジした記録 - 2/10

お題:僕の居場所

 近年、稀に見る大喧嘩だった。
 はあ、と溜息を吐いて、マサキはサイバスターのコントロールルームのシートに深く身体を埋めた。原因なんて些細なものだ。些細過ぎてもう思い出せないくらいの。かといって頭を下げたいとは思えないぐらいに激しい言い合いになってしまったテュッティとの喧嘩を振り返って、マサキは更に深く溜息を吐いた。あなたに何がわかるっていうの。そこまで云わせてしまった。
 行き場がない。
 公私に渡って密な付き合いをしている魔装機操者同士の喧嘩は、だからこそ片方を仲間から弾いてしまうこともあるのだ。どうせ他の連中はテュッティの肩を持つに決まっている……喧嘩両成敗とは中々行かない諍いの行く末が想像出来てしまう。マサキの溜息の原因はそれだった。
「おや、マサキ。どうしたのです」
 そこに通りかかったのだろう。偶然にしては出来過ぎている気もするが、グランゾンに乗ったシュウが姿を現わしたものだから、思わずマサキはシュウに愚痴を洩らしてしまっていた。それでしたら。マサキの長い話に耳を傾けたシュウは何が可笑しいのか。笑いを堪えている様子で、
「少しの間、私の家にでも来ますか。お互い頭を冷やす時間も必要でしょう。その代わり、落ち着いたら家に戻りなさい。喧嘩は時間が経てば経っただけ、仲直りがし難くなるものですからね」
 いいのか、と聞くと、良くなければ誘いませんよ、と言葉が返ってくる。少し躊躇いはあったものの、マサキはシュウの言葉に甘えることにした。渡りに船と揚々として誘いに乗れない気分だった。けれども、酷いことを云った分、酷いことも云われた喧嘩は、思い出しただけで頭に血が上る程度には、マサキの心を乱してしまっていたからこそ。
 暫く頭が冷えそうにない。
 ほら、行きますよ。シュウがそう云ってグランゾンを先行させる。まるで静かに水を湛えている湖のようだ。滅多に心を乱すことのない男は、こうして何気なくマサキに居場所を与えてくれるのだ。甘えてばかりだよな。思わずぽつりと口を衝いて出てしまった言葉は、シュウには届かなかったようだ。何ですか? モニターの向こう側。いつも通りの澄ました顔。何でもねえよ、行こうぜ。素直に感謝を表せないマサキは、自らの言葉を胸に仕舞うと、グランゾンとともに。ラングランの大地を往く。