紛失を避けるために預言書を持ち歩いていたらしいシュウと共に、着飾った女たちが集う華やかな場でミオの着付けが終わるのを待つのが嫌だったマサキは、ミオに美容院の場所だけ教えて貰い、先ずは近くのコンビニに預言書のコピーを取りに向かうことにした。
「魔装機神二体をひとりで転送させるパワーが出せるくせに、あいつはどうして戦闘でその実力を発揮できないかね」
滅多に出ない地上の割には、手馴れた様子で預言書のコピーを取るシュウに、マサキが話しかければ、
「我欲が強いのでしょうね」と、にべもない。
これだけの短期間に二度も地上に出るとは思っていなかったマサキは、時間もある。今度こそ少しは娯楽を楽しみたいと、雑誌を数冊購入すると、それを読みながらシュウがコピーを取り終わるのを待っていた。
政治に、娯楽。社会問題。健康記事に生活の知恵。マサキにはさっぱりよさのわからないグラビアアイドルが、悩殺的なポーズを取っている巻頭カラー頁を捲れば、そんな硬いのか柔らかいのかわからない記事がぞろぞろと続いている。地底だけでなく、地上でも、この手の話題は需要が多いらしい。
「我欲ねえ。まあ、やりたいに勝るパワーは確かにないしなあ」
「そこを上手くコントロールしてこその魔装機操者でもあるでしょう。ただ闇雲に目の前の問題に首を突っ込めばいいという話でもない。力を力で制し続ければ、いつかはどこかで歪が出ますよ。それがあなたたちを飲み込む時代の潮流とならないよう、願ってはおきますが」
マサキが地底世界に居を構えて随分経った。その時間の流れを思い知らせるように知らない名前が大分増えた記事を読み進める。
「お前、機嫌悪いな」
「悪くはありませんよ。ただ、もう少し、静かに年を越す予定でしたので」
本当かよ、と、マサキは呟いてシュウの横顔を覗き見た。能面のような無表情。コピー取りなどという退屈な作業で笑顔を浮かべろとは言わないが、それにしても人間味に欠ける表情をしている。
そう思いながら、「そんなつまらなさそうな表情をしやがって」
「言ったでしょう。静かに年を越す予定だったと。サンプルの分析をしながら預言書の解読を進める。そのつもりでいたのですよ、私は。例の男の所在調査はサフィーネに、ヴォルクルス教信徒たちの動向調査はモニカとテリウスに任せましたしね。久しぶりにひとりで静かに年を越せると思っていたのですが」
「あー……そりゃ、済まなかった」
「あんなところであなたと鉢合わせしてしまった私も悪い。これでも随分、軍部に工作をしたつもりだったのですが、それが却って裏目に出てしまったようです。余計な警戒心を抱かせてしまった」
「……てめぇ、まさか俺たちが介入出来ないように働きかけたとか言わねぇだろうな」
「そのぐらいには、私とて人脈を持っているのですよ」シュウの口元が歪む。
「油断も隙もねぇ」
「不確定要素が増えすぎると計画を遂行するのが難しくなる。あなたとて、そのぐらいのことがわからない年齢ではないでしょう」
マサキが想像していたよりも分厚い預言書。それを一頁捲ってはコピーを取り、また一頁捲ってはコピーを取る。
美容院への来がけにシュウが話をしてくれたところによると、この預言書は百年ほど前に記された比較的新しいものなのだという。信徒の間にだけ出回った書籍だからだろう。現存している数は極端に少なく、ナンバリングは五十まで。しかもヴォルクルス復活の預言書とだけあって、記された当時は相当に信徒の間で物議を醸したようだ。その結果、梵書にしてしまった信徒も多かったという。そうした事情もあって、下手をすれば十部に満たない量しか出回っていない可能性もあるという噂らしい。
ルオゾールは信じていませんでしたね、とシュウは何かを思い出したように、物憂げに呟き、その真贋の議論が予言内容の研究の進みを遅らせてしまったのですよ、と、付け加えた――……。
「人のことを不確定要素呼ばわりしやがって」
「あなた方に統率の取れた動きを期待するほど、私は自分の知能に自信を持っていない訳ではないのですよ」
「言ってくれやがる」
確かにシュウの言う通りなのだから、マサキに反論のしようはなく。強がって吐いてはみたものの、それ以上の言葉は続かなかった。
そもそも、それぞれに地底に居所を持ちながら、全員の所在が知れない日の方が多いのだから、あにはからん。それに、人間関係の拗れもある。主義主張の違いもある。同じ目標に向かっているからといって、魔装機操者の足並み全てが揃うとは限らない。今日の味方は明日の友でもあるのが、独立独歩の魔装機操者たちだ。
溜め息をひとつ。そしてマサキは再び手元の雑誌に視線を落とす。
「ところで」シュウはコピー機から視線を動かさずに言った。「指輪はどうしましたか」
「下手に付けて回ると煩い連中がいるんだよ。それにあちこち付け回って無くすのも怖いし――」マサキはポケットからリングケースを取り出す。「どうしたものかね」
折角貰ったものを直ぐに曇らせるのも嫌だと、柄にもなく買い求めてしまったケースに指輪を収めてみたはいいものを、マサキはその扱いに困っていた。ゼオルートの館の女性陣たちは、どうかするとマサキの許可なく室内に立ち入ってくる。その目に触れさせたくないばかりに、結局マサキはこうして普段からリングケースごと指輪を持ち歩く羽目に陥っているのだか、いつまでもこういったいつ無くすかわからない扱いを続ける訳にもいかず。
「ファッションリングとでも言っておけばいいものを」
「テュッティが勘付きかけてるんだよ」シュウの提案に首を振る。
「言い張れば真実ですよ」
マサキはリングケースを開く。鋭く光る指輪は、まだ買って貰ってから日が浅いからだろう。クリスマスの日のままに輝いていた。
それをそっと左手の小指に嵌めてみる。ひんやりとした、しかし確かな存在感。今日ぐらいはいいか、とマサキはリングケースを閉じるとポケットに収めた。
「そういやお前、テュッティに聞いたら左手の小指だってよ」
「ああ、プロミスリングですか」
「そう。中途半端な知識で物を買おうとするんじゃねぇよ。願い事が叶わなかったらどうするんだ」
「路傍の石ころも念が込められれば神となる」そろそろコピーも終わるようだ。預言書の少なくなった頁数に、シュウはコピー紙の排出口に山と溜まった紙をコピー機の上で纏めながら、「願掛けとはそういったものでしょう」微笑みながら言った。
※ ※ ※
「どういうことなの、この指輪。さっきまでしてなかったよね」
二時間ほどで美容室から出てきたミオは、身体を飾る振袖やセットアップされた髪の毛も鮮やかに、ファーストフードでドリンクを片手に身体を休めていたマサキたちの元に姿を現すと、目ざとくもマサキの左手を掴んで言った。
「お前、馬子にも衣装なんだから、そういう荒っぽい動きはよしとけよ」
「あたし、一応、この間のクリスマスパーティ、マサキのこと庇ったんだけど」
「そりゃあどうも。でも、てめぇが思ってるようなことは何もねぇよ」
「じゃあ何? 指輪が瞬間移動してきたって言うの? さっきまでなかった筈の指輪が左手の小指に嵌ってるなんておかしいじゃないのよ。ねえ、シュウ!」
「ザムジードの操者にしておくのが勿体ない程度には、よくお似合いですよ」
「こんな堂々とした誤魔化し方、ある?」手元の本から顔を上げるなり、真正面からミオを見詰めてきっぱりと言い切ってみせたシュウに、彼女は驚きを禁じ得ないといった表情で一瞬惚けてみせたものの、即座に気を取り直してマサキの腕を掴み上げると、左手の指輪をその目の前に押し付けるようにかざして見せ、
「あなたが何かしたんじゃないの?」
「女性の褒め方ぐらいは心得ているつもりですが」
「そうじゃない! マサキの指輪の話よ!」
シュウはあくまで空惚けるつもりらしかった。そう言うと再び手元の本に視線を落とす。そのシュウの人を喰った態度に、我慢しきれなくなったらしい。どん、とマサキの腕をテーブルに叩き付けると、ミオはふたりの間に割って入り、おしとやかさはどこへやら。ソファにどっかと腰を下ろし、
「これはちょっとじっくり腰を据えて話す必要がありそうね。マサキ、アイス買ってきて。ワッフルコーン。さっき奢ってくれるって言ったよね」
「言ってねぇよ! お前が奢らせるって言ったんだろ!」
「いいから買ってきて! ストロベリーね! そしてシュウ! 本は後にしてあたしと話をするのよ!」実力行使とシュウの手元から本を取り上げた。
仕方なくマサキはソファから腰を上げて、階下のレジカウンターにアイスを買いに行く。そこそこの人垣が列をなしている。夕刻を過ぎ、そろそろ新年の準備を終えた人々が、大晦日の街に繰り出し始めたのだろう。
こんな空気は始めてだ。
ふ、と、マサキは子供の頃を思い出す。一年で一度だけ、遅くまで起きているのを許して貰えた日。お節や年越し蕎麦の準備に忙しい母親が、台所に向かい続けているその背中を見ながら、こたつに潜り込んで父親とテレビを見た。除夜の鐘……そしてそれが終わりを告げる頃に、新年の挨拶をして眠る。
翌日は近所の神社に初詣。そして親戚の家に顔を見せに行くのだ。
お年玉を集め終わったら、そこでようやく友人たちと合流。お年玉の金額を報告し合って、新年の街へ繰り出す。そう。オールナイトで遊んだことは数多くあれど、マサキが年越しから初日の出までの時間を、日本で他人と一緒に過ごすのはこれが初めてのことなのだ。
「ワッフルコーンひとつ。ストロベリーで」
「二百円になります」
人が増えてきた店内に、いつまでもドリンクだけで粘る訳にもいかない。適当なところで外に出ようと思いながら、マサキはワッフルコーンを片手に二階の席に戻る。階段を上った少し先の席。華やかさが目を引くミオが、長駆が目を引くシュウに詰め寄っているのが見える。
「ねえ、マサキ。シュウがあたしの話をはぐらかすんだけど」
「聞かれても知らないことは、知らないとしか答えようがないのですよ」
「もういいじゃねぇかよ」マサキはミオの隣に腰掛け、ワッフルコーンを渡してやりながら、「俺だって偶には指輪ぐらいするってことで」
賑やかな店内は、地上からの来訪者たちを、それと知らずに包み込む懐の広さに溢れていた。
マサキの隣の席には今日が仕事納めなのだろう。サラリーマンが新聞紙を広げながらセットメニューを食べている。向かいの席には若者たち。何人かが着物を着ているということは、マサキたちと同じでオールナイトで年越しを楽しむつもりなのだろう。
斜向かいの席には外国人観光客。どうやら向かいの席の客と意気投合したようだ。ふたりで肩を寄せ合って記念写真を撮影しだした。シュウの隣、マサキの逆向かいの席では、テーブルにノートとテキストを広げた女性が、ヘッドフォンで音楽を聞きながら勉強に余念がない。
指輪々々、と、大騒ぎしたところで、彼らはこちらのその騒動には目もくれない。今日を楽しんでいる者たちは、周囲に余計な注意を払わないものなのだ。
「ああ、そう。じゃあ、もう絶対にマサキの味方はしない。今まで何度も庇ってあげたっていうのに、そんなあたしの優しさを無視して、本当のことを教えてくれないなんて。さっさとシュウのところにお嫁に行っちゃえば?」
豪快にワッフルコーンごとアイスにかぶりつきながら、不貞腐れている。頬を膨らませ、ミオは横目でマサキを睨む。「なんで話が飛躍するかね」呟けば、本を奪われて手持ち無沙汰らしいシュウが、すっかり氷が溶けて温くなったアイスコーヒーを啜りながら、
「私たちは日常生活における生活能力が低いですからね。一緒に暮らしてもいずれ行き詰まるかと」
否定しているように見えて、否定の仕方に大いに問題がある台詞を吐く。
生活能力の問題が解決するなら、マサキを嫁に貰うのもやぶさかではなさそうな台詞。マサキとしては、“そろそろ慣れたいところだが、積極的に慣れたくもない”類の台詞だ。
とはいえ、マサキとてわかってはいるのだ。シュウがわざとやっていないことは。
長く身を置いた王室で、シュウは物事をはっきりと否定したり肯定したりしないことを、徹底して覚えさせられたのだと言う。迂闊に他人に言質を取られようものなら、その言葉を意向として政治に利用されかねない。それがかつての専制君主制における最高権力者一族、王族という存在だったからだ。
傀儡とならない為の処世術――王室で生きていくのに必要だった言葉回しを、年齢が行ってから改めて直すのは難しい。そんなことはわかりきっている。それでも、この婉曲な言葉回しは、はっきりと物を言うことに慣れているマサキたち一般人にとっては、誤解を振りまく表現以外の何者でもなく。
「お前、毎回いい加減にしろよ! そこは先ず否定から入れよ! 後な、俺はお前と違って一通りの家事はこなせるんだよ!」
「私とて一通りの家事はこなせますよ。ただ、無駄な時間に感じてしまうことが多いだけで」
「どうだか。目玉焼きを炭火にしたこともあったくせによ」
へぇー……と、ミオが呆れたとも感心しているとも取れる、なんとも表現し難い声を上げた。「少なくとも料理を作って貰えるぐらいの仲ではあるんだ。そりゃあ皆、誤解だってするよねえ。あたしたちシュウとそこまで個人的な付き合いなんてしてないのに、マサキだけそんな親しく付き合ってるんだもの」中身のなくなったワッフルコーンの最後の部分を口に放り込む。それを勢いよく噛み砕く。そしてマサキのドリンクカップを奪うと、炭酸の抜けたジュースを飲み干して、まさかそんな状態になっているとは思っていなかったのだろう。ミオは盛大に顔を顰めた。
「その程度のことが気になるというのでしたら、どうせふたりとも、サンプルの検査結果が出るまで私を監視するつもりでいるのでしょう。そのついでに私の手料理を食べて行かれてはいかがですか」
「やめとけ、やめとけ。こいつの料理はサラダに屋台で買ったフィッシュ&チップスを温め直すとか、その程度なんだから」
「なんだろ。あたし今、マサキに盛大にのろけられてる気分」
「のろけてねぇよ! そのぐらい生活能力がないって話だよ!」
「いずれにせよ、私とマサキの生活能力のなさは、同じレベルだと思うのですけれどもね」シュウはミオが自分から取り上げて、テーブルの上に置いた本を手に取った。それを再び読むのかと思いきや、鞄の中に仕舞いながら、「それはさておき、この後の予定はどうなっているのですか。あなた方、今日の予定を立てて来ているのでしょう」
「大晦日じゃなければカラオケでもいいんだけど、流石に今日はねえ。混むだろうし」
「それにシュウはゲーセンって柄でもねぇしなあ」
「年越し蕎麦でも食べに行く? でも絶対に混んでるよね」
マサキはミオと顔を見合わせた。時刻はようやく夜を迎えたばかり。除夜の鐘を聞きながら神社に向かうにしてはまだ早い。とはいえ、どこかで時間を潰すにしても大晦日。この時間からだとどこも混み合っている。
「でしたら時間もあるようですし」
鞄の中からシュウが取り出してきたのは、先ほどコンビニで取った預言書のコピーの束。読みますか、とそれをテーブルの広げる。「それだったらセットメニュー頼もうぜ。ドリンクだけで粘るもんじゃねぇよ」
Ⅰ-Ⅰ
北より白き葉が、南に降りてくる
Ⅰ-Ⅱ
中点に炎舞い、■■は歌い踊る
Ⅰ-Ⅲ
東に黒き果実が、その実を口にした者に祝福を与えしとき
Ⅰ-Ⅳ
西の双■は……
シュウが所持している預言書は完璧な保存状態ではなかった。虫食い状態の預言書の本文は、焼けて黄ばんでいるだけでなく、煤けて文字が読めなくなっている箇所もあった。表紙にも焦げた跡があったことから、どうやらこの預言書は梵書を逃れた一冊であったようだ。
一篇が十三節からなる百八篇にも渡る災厄の予言の数々を、マサキとミオが読み終えるのには一時間半がかかった。宵の口に差し掛かったファーストフード店の店内は、大分その顔ぶれを変え、見知った顔はもうない。夜の初めにいた客たちは、それぞれの行き先に向かったのだろう。若者ばかりで賑わう店内は、これから迎える新しい年への期待と喜びで満ち溢れている。
「全部でいくつの予言があるの?」読み終わったミオが聞けば、シュウからは千四百四節との返事だった。そうなると、仮に一日にひとつの災厄が起こったとしても、単純計算でヴォルクルス復活には三年以上の月日が必要になる。
「千四百四節!? 三年以上!? いやー……これは、ないんじゃないの? 手間が掛かり過ぎてるし」
「それを大真面目にやってみせるのが狂信者でもあり、テロリストでもあるのですよ。そもそも、信仰に効率や利便性を求める信徒はいないでしょう。彼らにとって信仰とは生き方であり、思想であり、奇跡でもある。奇跡にまで合理性を求めてしまったら、それは日常です」
マサキはすっかり萎れてしまったポテトの残りを口に運ぶ。コピーを取るシュウの時間のかかり方から面倒な書であることは予想していたものの、とはいえ、これほどまでに長く純粋な予言の書だとは思っていなかった。氷の溶けたジュースを口に運ぶ。それだったら、今まで通り、戦乱を通じて出た被害をヴォルクルス復活の贄とした方が、余程、効率的であるし効果も高い。考えて、それでも、と考え直す。ならば、サフィーネの会った男は何者だ。
「いや、まあ、そうなんだけど」ミオの疑問は尽きない。「でもさあ、これってどこを中心にして西だの東だの中点だの言ってるの? その中心が予言を書いた人の視たビジョンとずれてたら、いくら予言を実現しても、ヴォルクルスは自ずから復活はしないってことだよね?」
「普通に考えればサーヴァ=ヴォルクルス生誕の地でしょうね。しかし、その生誕地には諸説あり、ここが確実に生誕の地とは言えない面がある。この預言書を記したアザーニャ=ゾラン=ハステブルグという人は、ヴォルクルスはラングランの大陸そのものに生まれ落ちたとたと考えていたようですが」
「ラングラン大陸そのもの? どこかの地方ではなく?」
「それだけの大きさを誇る巨人族だったからこそ、神となり得たのではないかと考えていたようです。ルオゾールはアザーニャ神官のその能力が大きさに比例すると捉える古来的な考え方が気に食わなかったのでしょうね。歯牙にもかけていませんでしたよ」
「え? そしたら、北だの南だの西だの東だのっていうのはラングランの話ではなく、ラングランを中心とした他所の大陸の話?」
「ところがそうは簡単に話は終わらないのですよ。アザーニャ神官が居を構えていたのは城下近く。表向きはラングランの下級貴族として生活していたようです。これは残された当時の書簡などから明らかとなった確実な情報になります。ですから、中点=ラングラン王宮と考える向きもあるのです」
その中点が実際のところどこであろうとも、白鱗病と聞いて予言の一節を諳んじてみせる男が存在しているのは事実なのだ。マサキは残りのポテトを口の中に流し込んだ。流し込んで、それを咀嚼すると、ソファの手前に陣取っているミオの向こう側。シュウを覗き込んで、
「とはいえ、今回の件に本来の中点の位置は関係ないだろ。サフィーネが会った男が、どこを中点だと考えているかであって」
そうですよ。シュウはそう言って、九九を上手く言えた子供を褒めるかのような表情で、マサキを見た。
「勿論、中点をどこに定めるかは、今以て研究者の間でも議論が交わされる問題です。ですが、今回の件に関しては、本来の中点がどこであったかについては全く関係がない。あなたの言う通り、彼らがどう考えているかの問題です。だからこれがテロであった場合、厄介なのですよ」