続々・140字SSにチャレンジした記録 - 3/9

 何で俺が。マサキは両手に山と抱え込まされた見舞いの品に、苦々しい思いでいた。
 マサキに対しては辛辣に言葉を吐くあの男は、艦の他の同乗者たち――わけても乗組員クルーに対しては、意外にも面倒見の良さを発揮しているらしい。恩が形となった見舞いの品の数々は、どれも物資に乏しい宇宙空間で集めたにしては高価なものばかりだ。
 彼らの好意を疑うのはよこしまに過ぎるとはいえ、マサキにとっては敵でも味方でもない男。本当かよ? と、マサキに見舞いの品を託すべく集った乗組員たちに訊いてみたところ、魔術に学術、武芸と何をさせても平均以上に修めてみせる男は、その知識を彼らの求めに応じて快く授けてくれることもあるのだとか。
 それを耳にしたマサキの口さがない二匹の使い魔たちは、気紛れなマサキとは大違いだニャ。などとかたきを褒める言葉を吐いたものだ。これでマサキが面白い筈がない。即座に床を蹴ったマサキに、二匹の使い魔たちは、横暴だニャ! と、それぞれ声を上げて、自分たちを可愛がってくれる整備員たちがいる格納庫バンカーに逃げ込んでしまった。
 共連れのない道のり。ひとりでシュウの船室キャビンの前に立ったマサキは、早々に挫けそうになっている心を奮い立たせて、中にいるだろう彼に声をかけた。
「おい、シュウ。入るぞ」
 鬼の霍乱というべきか。それとも、彼もまた人間であったというべきか。風邪を引いて熱を出している真っ最中である筈のシュウは、折り目正しくも衣装を着込んだ姿でベッドの上、上半身を起こして読書に耽っている真っ最中だった。何で更に熱が増すようなことをしやがってるかね、この男は。云いながら、見舞いの品を渡したマサキは、慇懃無礼に礼を述べたシュウに、これで用事も終わりとその場を立ち去ろうとした。
「見舞いに来た割には素っ気ない」
「当たり前だろ。俺はあいつからから託された見舞いの品を届けに来ただけだっつうの」
 本当に? 切れ長のまなじりにマサキの姿を捉えてシュウが云う。日常の感情表現に乏しい男は、時として雄弁に目で物を語ってみせる。お前、病人だろ。シュウの云いたいことを察したマサキは、これみよがしに溜息を吐いてみせた。
「大した熱もないのに寝ていろとは、大袈裟な医師もあったものですよ。お陰で退屈で仕方がない」
「熱があるから寝てろって云われてるんだろうよ。お前の頭脳はお飾りか」
 それに対してふふ、と声を忍ばせて笑ったシュウが、マサキに向けて手を差し出してくる。
「来なさい、マサキ。その靴を脱ぎ捨ててね」
 いなされたばかりだというのに聞く気は全くないようだ。はあ。マサキは重ねて溜息を吐いた。何でより具合が悪くなることをしたがるかな、お前は。けれども逆らおうとは思えない。マサキはブーツを脱いで、シュウの膝の上と乗り上がっていった。

140文字SSのお題
『その靴を脱ぎ捨てて』をお題にして140文字SSを書いてください。