続・140字SSにチャレンジした記録 - 3/10

 鳴り響くガラのが徐々に大きくなってゆく。どうやら何某なにがしかの祭りが行われているようだ。マサキは懐かしい響きに誘われて、音がしてくる方へと足を進めていった。
 次第に過密してゆく人いきれの中、マサキは探していた人物を見かけた気がした。まさか、と思いながらもマサキの足は止まらない。急ぎ人波を掻き分けて、ようやくその人物の背中を捉えられる距離まで近付いたマサキは、その瞬間、その光景に目を見開いていた。
 まま、ままと泣きじゃくる少女。
 どうやらこの人混みで母親とはぐれたらしい。
 その目の前に立つ長躯の男。マサキが探し求めていた人物は、身を屈めて何言か少女と言葉を交わすと、躊躇うことなくその肩に少女を担ぎ上げた。そんな馬鹿な。マサキは二度驚かずにいられなかった。
 あの男は顔色ひとつ変えることなく、マサキの養父の命を奪った男であるのだ。
 そして、マサキの第二の故郷であるラングランの王都を壊滅に追いやった……。
 まま、まま、どこー? 自らの身長よりも高い景色の目新しさや、助けとなる人物が登場したことによる安堵からだろう。先程までの涙はどこにやら。笑顔を浮かべながら少女は母親を探している。何か裏があるに違いない。マサキは自らの気配を気取られないようにしながら、慎重に男の様子を窺った。
 やがて人波の向こう側から響いてくる呼び声。母親が少女を見付けたようだ。悠然と、足取りも優雅に人いきれの中を抜けてゆく男に、後を追いながらマサキは自らの鼓動が激しくなってゆくのを感じていた。
 ――まさか、そんなことがある筈ない。
 地底世界であれだけの行いをしてみせた男であるのだ。マサキは警戒していた。これで終わる筈がない。だのに、素直に迷子の少女を母親の許に送り届けてみせた男は、感謝を述べる母親に会釈をしてみせると、他には何もせずにその場を立ち去ろうとするではないか。
 嘘だ。うそだ。ウソだ。マサキは何度も目の前にて繰り広げられた光景を打ち消そうと試みた。見てはならないものを見てしまったようないたたまれなさが胸を占めている。どうしようもない動揺。あの男はラングランに災厄を振り撒いた張本人である。それなのに。
 マサキは男の小さくなる背から目を離せずにいた。
 そのマサキの視界の隅で、ふと男が足を止めた。
 そして彼は、あのいけ好かない笑みを口元に浮かべながら、明確にマサキを振り返ってみせると、次の瞬間、マサキの愚かさを嘲笑うかのように雑踏の中へと姿を消していった――……

140文字で書くSSお題
kyoさんは『見開いた瞳』をお題に、140字でSSを書いてください。