なあ、シュウ。ふたりで訪れた街、洋品店の軒先にあるショーウィンドウを暫く眺めていたマサキが、そのウィンドウショッピングの終わりを待っていたシュウを振り返って、これが欲しい。そう続けたものだから、自分に物をねだってくるなど珍しいこともあるものだと、シュウとしては目を瞠らずにいられなかった。
そもそも着たきり雀な面があるマサキのこと。ファッションに関心を寄せること自体が珍しいことである上に、滅多なことではシュウに物をねだったりもしないのであるから、これで驚くなという方に無理がある。一体、どういった理由で彼が自分に物をねだるに至ったのか――怪訝に思ったシュウがその理由を知るべく、ショーウィンドウを覗き込んでみれば、桁が一桁違う商品ばかりが並んでいる。
マサキが指し示したブルゾンは、細かい刺繍が施されている上に、ひと目でそれと知れる上質な生地が使われているとあって、ラングランの一般市民が購入する上着の市価と比べれば、十倍以上の値段になったものだ。これだけ立派な商品であれば、如何にファッションに疎いマサキであっても、物欲を刺激されようというもの。彼の我儘の理由に納得したシュウは、件のブルゾンにまじまじと目をやった。
彼らしいチョイス。スポーティなブルゾンはさぞマサキに似合うことだろう。その姿を想像して、偶の我儘を聞くのも悪くない。そう思ったシュウが、マサキに先立って洋品店に足を踏み入れてみれば、更に物欲を刺激されたようだ。シュウの後に続いて洋品店に入ったマサキは、棚やハンガーに並んだ商品を物色しながら、ついでにとばかりにあれもこれもとねだり出してくる。
「珍しいこともあるものですね。あなたがそんな風に私に物をねだるなど」
「何だよ。俺にプレゼントをするのが嫌だとか云わねえよな」
「云いませんよ。滅多にない機会です。むしろ店ごと買っても足りないぐらいだ」
毎度のことであれば躊躇いも生まれたものだろうが、偶の気紛れ。むしろこういった機会でなければ、彼が望む品を贈ることも出来やしない。マサキの望みを全てを叶えるべく、シュウは大いに財布の紐を緩めてみせた。
そうして、大量にせしめた戦利品を両手に抱えて満足気に店を出たマサキに、これも幸せのひとつ。シュウは自らもまた満足を覚えながら、マサキと肩を並べて、更に街の中心部へと。彼とふたりで過ごす時間の残りを有効に活用すべく、歩を進めていった。
幸せを感じる瞬間
わがままをひとつ