愛を囁く日に聖者に甘い贈り物を - 5/5

(結)

 ついでの用事があるというヤンロンにセニアへの報告を任せ、ゼオルートの館に戻ってきたマサキたちは、水の魔装機神ガッデスに積み込んだダンボール箱を降ろし、足元にじゃれつく使い魔たちを爪先で払いながら両手にその箱を抱えて玄関扉を潜った。
「お帰りなさい、マサキ! 待ってたよ! ……って、何その荷物」
「お前たちの分もあるぜ」
「お土産なのかしら? テュッティもお帰りなさい。首尾はどうだったの?」
「まあまあね。目的は果たせたし、よかったんじゃなかしら」
 リューネとウェンディに出迎えられたマサキとテュッティは、ふたりに手伝ってもらいながら、全てのダンボール箱をダイニングに運び込む。「なによ、この甘い香り。今日はもういいわよー……」テーブルの上に突っ伏しているミオが、その箱から匂い立つ香りを嗅いでは気力なく。
「おにいちゃん、お帰りなさい」
 奥のキッチンから漂ってくる夕餉の香り。鶏肉を焼いているようだ。甘い香りと香ばしい香りが混ざり合うダイニングに、少しだけ顔を覗かせたプレシアは、それだけ言うと再びキッチンに姿を消した。
「ひとつひとつは軽くても、それが箱単位になると重いものね。肩が凝りそうよ」
「肩ぐらいあとでマッサージしてやるよ」
「そう言っておいて忘れるのよ、あなたは」肩を撫でながら、「プレシア、手伝うわよ」その支度を手伝うべく、テュッティもキッチンに姿を消す。「ご主人様、そろそろ我々に何か食べ物を……」その後ろを昼から何も食べずに魔装機の番に当たっていた四匹の使い魔たちが、食事を求めてついて行った。
「あら、可愛いギフトボックスがいっぱい!」
「何これ! マサキ、もしかしてこれ中身全部チョコレート!?」
 勝手知ったる他人の家。しかも甘い香りの漂ってくる箱とあっては、好奇心が抑えられなかったのだろう。ダンボール箱の中を覗いたリューネとウェンディが声を上げた。中には立方体に直方体、円柱型といった様々なタイプの高級感溢れるデザインのギフトボックスが詰まっている。勿論、中身は全てチョコレートだ。
 付き合って欲しいところがあると言ったシュウにマサキたちが連れて行かれたのは、城下町に本店がある有名洋菓子店の支店だった。カラフルな町並みの中では浮いて見えるクラッシックな外観の建物は、格調高さではシュウに似合っていなくもなかったが、元々が甘いものとは無縁の男。ストレートの紅茶やブラックなコーヒー、プレーンなスコーンなどを好む男が立ち寄るには、意外を通り越して驚天動地。
 ――今回の件で各方面に迷惑をかけたお詫びを何にしようか考えていたのですよ。地上の暦で今日はバレンタインなのでしょう。だったらチョコレートも悪くないと思いましてね……まあ、ほんのお遊びですよ。
 お遊びにしては少々値が張るチョコレートの数々を、シュウは惜しげもなくダース単位で買い求め、それをマサキたちに持たせると、「情報局なり、練金学士協会なり、軍部なり、好きなところに配ってください」
 決して安くない会計金額を現金キャッシュで支払ったシュウに、マサキがこっそり太っ腹の理由を訊ねてみたところ、地上で特許を取得した技術のひとつが地上の企業の商品に採用され、かなりの販売数を記録した結果、莫大な特許料が懐に転がり込んだのだと言う。相変わらず、どこで何をしているか油断のならない男である。
「それはシュウから今回の件のお侘びに皆で食べるようにって貰ったのよ」サラダとスープを乗せたワゴンを押しながらテュッティがダイニングに姿を現す。「ウェンディも好きなだけ持ち帰って頂戴。練金学士協会アカデミーでも預言書の解読をやっているのだし。勿論、リューネもね」
「またシュウなの!?」リューネが声を上げた。「なんなのあの男。あたしたちのマサキにちょっかいかけまくって。しかもチョコレートって絶対今日が地上の暦でバレンタインデーだってわかっててやってるよね?」
「あらあら、また? マサキ、あんまりクリストフを袖にしてると、その内、痛い目に合うわよ。あの人、あなたも知っての通り執念深い人なのよ。しかもあれは絶対に嫉妬深いタイプ」
「なんでそういう方向に話が向かうかね。わかるだろ、この量。俺にって訳じゃねえんだよ」
 まだ何か言いたげにしているリューネとウェンディを尻目に、マサキはダンボール箱の脇に置いておいた紙袋を取り上げた。中にはマドレーヌやらクッキーやらチョコレートやらの洋菓子のセットが詰め込まれている。
「おい、ミオ起きろ。これはお前にってシュウから預かった洋菓子のセット。正月料理のお礼だってよ」
「えー……もう本当にいいのよー……甘いものは暫く沢山なのよー……」
 三日も前からリューネのバレンタインのチョコレート作りに付き合わされ、その失敗作のリカバリーを続けてきたミオは、どれだけのお菓子を作り出したのか。その成果を見ていないマサキにはわかりかねたが、その疲れ果てた様子を鑑みるに、今年のバレンタインも彼女にとってはトラウマとなる結果に終わったようだ。
「シュウもあたしに寄越すならお煎餅とかお餅とか、せめて甘いものでも羊羹とかー……あー、白玉団子が恋しい!」がばっ、とミオがテーブルから顔を上げて、絶叫する。「上新粉! 上新粉よ! マサキ、地上で上新粉を買ってきて!」
「今度買ってきてやるから、これは受け取れよ。あいつにしちゃあ珍しく、お前に本当に感謝してたんだぜ。直接お礼を言えないのを残念がってたぐらいだ」
「あのシュウがあ?」疑わしげにリューネが言う。
「それだけミオの正月料理が気に入ったんだろ」
 嘘ではない。洋菓子店での買い物にひと段落付けたシュウは、そこでふと、一番にお礼をしたかったとミオの不在に言及したのだ。不在の理由をわざわざ尋ねこそしなかったものの、「彼女がいれば夕食ぐらいはご馳走したのですがね」と、物惜しげに呟いたシュウは、ひとりだけグレードの異なる洋菓子の詰め合わせをミオのために用意して、そしてそれをマサキに託した。
 ――随分と優しい真似をしてくれるじゃねえか。
 ――ああいった料理を家庭の味で食べられるとは思っていなかったからですよ。
 帰路、少し離れた場所に置いてきたらしい青銅の魔神グランゾンまで、シュウを風の魔装機神サイバスターで送り届ける最中、彼はそう言ってらしくなく穏やかな微笑みを浮かべてみせたものだった。
 そんなこととは露知らず。余程、和菓子が恋しいのだろう。上新粉と繰り返し呟きながらぶんむくれているミオに紙袋を渡したマサキは、ようやく受け取ってくれた彼女に、そこでやっと話が進むとリューネとウェンディを振り返りつつ、「ところで、お前らふたりは俺に何か用事があってここにいるんじゃないのか?」
「そうだった! マサキ、こっちに来てよ!」
「年に一度のお楽しみよ」
 ふたりに背中を押されるようにして、マサキはリビングに足を踏み入れた。日頃は酒盛りにしか使われることのないリビングの応接セットのテーブルの上に、小さな包みと大きな包みが並んでいる。小さな包みの包装紙には店名が印刷されたシールが貼られている辺り、既製品を買わせるミオの作戦は上手く行ったようだ。
「なんだよ。結局、チョコレート買ったのか?」
「えへへ……まあ、そこはそれ。頑張ったんだけどね、上手く形にならなかったから」
「そりゃあ、ミオだって疲れるよなあ」
「当たり前でしょ!」三人の後を付いてきたミオが叫ぶ。「リューネがダメにしたチョコレート、全部形にするのに丸一日かかってるのよ! しかも今日も朝からお付き合い! で、最終的に城下町に買い出し! そのチョコレートだって、あたしがお店を勧めたのよ!」
「まあまあ、いいじゃないのよー。あたし、そういうの苦手だし。ね、マサキ」
「店ぐらいは自分で選んで欲しかったけどな」
 リューネに許可を得て、小さな包みの包装紙を剥がす。ピンク色のギフトボックスの中には、これまたピンク色の小粒のルビーチョコレートが、まるで四葉のクローバーのように並んでいた。「王室御用達のお店なのよ。これだけでもいい値段するんだから」買ったのはリューネの筈なのだが、店を選んだ自負なのか。ミオが得意げに言う。
「ありがとうよ。高かっただろ」
 毎年の恒例行事ともなれば、照れもてらいも無くなるものなのだ。義理と義務と欲望と愛情が絡み合う日。それがバレンタイン。そんなイベントの日に貰ったチョコレートに素直に礼を述べられるぐらいには自分も成長したのだとマサキは思う。
「私からはこれ。中身はケーキだから、扱いに気をつけてね」
 ウェンディはテーブルから大きな包みを取り上げると、そっとマサキに手渡した。ラッピングを解いてギフトボックスを開ける。そこには売り物と見間違う出来栄えの手作りのザッハトルテがあった。
「ありがとう。手間がかかっただろ?」
「ふふふ。年に一度のこの日のためだもの。手間もまた楽し、よ」
 そしてマサキは、マサキがチョコレートを受け取るのをにやついた表情で眺めていたミオに向き直る。
「お前は何かねえのかよ」
「あったわよ。リューネの失敗作をあたしがリカバリーしたチョコレートのお菓子が山ほど」
「あった、ってなんだよ。責任取ってちゃんと食うつもりでいたんだぜ」
「いやあ、城下町に買い物に行ったら、ばったりザッシュと会っちゃってね……」リューネが言いにくそうに口を開いた。「そういう話なら詰所の兵士たちと一緒に食べるって言うから」
「あいつが独り占めするに決まってんだろ」
 ミオの手を介している以上、おかしなことにはならないだろうが、失敗作は失敗作。腹痛が愛情でカバーできるなら、それもまた欲望の現れ。マサキも無理には止めようとは思わないが、元の物体を、その制作過程も含めて見てしまっているのだから、複雑な気分にならない筈がなく。
「なんで止めてやらないかね。ミオ、お前だって一緒だったんだろ」
「あたしはちゃんと止めたのよ。それをザッシュが大丈夫だって言い張るから」
 明日のザッシュの体調が気がかりではあるが、自業自得でもある。丸焼きにするのが精一杯なリューネの料理の腕を、彼はとうに知っているのだ。
「まあ、貰い先があってよかった。どれだけ失敗したか知らねえが、こっちにもチョコレートが山ほどあるのに、更にっていうのはちょっとな」
 明日はあのチョコレートを配って歩くだけで一日が終わるのだろう。ダイニングの一角を占拠するダンボール箱の量を思い返して、マサキはその苦労に思いを馳せた。それでもあの唯我独尊な男が、珍しくも侘びにと選んだ品なのだ。だったらきちんと配りきってやろう。マサキは思う。
 そこに、あ! と、思い出したようなリューネの声。
「そうだ、マサキ。アクセサリーを買ってきたんだけど」
「リューネが自分で選んだのよね」
「あたしとウェンディとマサキ。三人で色違いのお揃いにしたんだ、はい!」
 手のひらに乗るぐらいの小さな袋状の包装紙。リューネに渡されたそれのシールで止めただけの口をマサキが開けて手のひらに傾けてみれば――親指の先ほどのシリコン製の乳白色のドクロのペンダントトップが付いたネックレスが滑り落ちてくる。
「これ、暗闇で光るようになってるんですって」
「あたしはピンクで、ウェンディは水色。どう? いい感じじゃない?」
 ふぅ、とマサキは深呼吸をひとつすると、軽くこめかみの辺りを抑えた。流行は二十年でひと回りすると言う。今だったらもしかしたらファッション的にはアリなのかも知れない。けれども暗闇で光るドクロが最初に流行ったのはいつの日だったか。ひと回りどころかふた回りしている可能性もあるほどに、相当に昔の話である。
「これは昭和の遺物過ぎないか?」
「えー? 一周回って可愛くない? ほら、ごついアクセの代名詞って言ったらクロムハーツだけど、もう時代遅れっぽいし」
「お前の入れ知恵かよ、ミオ!」
「選んだのは、リューネ。あたしはいいなって思ったから何も言わなかっただけ」
「駄目かしら? 私は可愛いと思うのだけど」
「いいよねえ? ウェンディなんか超似合ってるし」
 そんな女性三人組の言葉に、暗闇で光るドクロは女子的にアリなのかと、カルチャーショックを受けつつ、それでもまあ、リューネが他人の言葉に流されずに自分で選んだものなら、と、マサキは有り難くネックレスを受け取ることにした。
 ただ、ネックレスとしてそれを身に付けるのだけはどうしても抵抗感がある。マサキはペンダントトップを外すと、その部分をキーホルダーに付けることにした。それでいいかとリューネに訊ねてみたら、その方が日頃身に付けていられるからだろう。彼女が喜んで、マサキのアイデアを受け入れてくれたからだ。
 そのままふたつのギフトボックスキッチンの冷蔵庫に収め、夕食のテーブルセッティングが済んだダイニングに戻ると、既にテーブルに着いてプレシアと話し込んでいたテュッティが、マサキの顔を見上げて、「今年のバレンタインは済んだのかしら?」
「終わったぜ。そう言われると、これも毎年の恒例行事なんだな」
「今年はこれだけチョコレートを貰ってしまったし、私たちからはない方がいいかしらね?」
「くれるって言うなら貰うけどな」
「よかった! はい、おにいちゃん。あたしたちからのチョコレート!」
 まだまだ幼さが残る可愛らしいチョコレートの数々を詰め込んだギフトボックス。こうしてプレシアからチョコレートを受け取れるのも、あと何回のことになるやら――いつかは嫁に出さなければならない義妹いもうとの将来を思うと、マサキの胸は少しだけ痛む。
「いつかはこうしてプレシアからチョコを貰わなくなる日が来るんだろうな」
「何、あなた突然に」
「その男がどんな男なんだろうとか、考えちまう時があるんだよ」
「おにいちゃん、だったらあたしとずっと一緒にいようよ」
「馬鹿言うな。そんなことになったらお前の父親おっさんに申し訳が立たないだろ」
「だったらあなたも片付けばいいだけの話じゃないの」
「片付くねえ。そういう自分が想像できな」
 言いかけて、はっ、となる。その存在を忘れていた訳ではなかったが、これではリューネとウェンディを蔑ろにしているとしか思えない。思いがけず洩らしてしまった本音。言葉に詰まる。口唇が熱い。
 ――お前を好きだって言ったら、どうする?
 ――ラングランに雪が降りますね。
 グランゾンまでシュウを送り届けたその去り際に、当然のように口付けられたマサキは、何事もなく向けられた背中に試しにそう告げてみた。今日はそういう日なのだ。だったら言ってみてもいいだろう。今思えば、マサキもバレンタインの熱に浮かされていたのかも知れない。
 シュウの過剰なスキンシップに答えを求めてしまうことは、愚かなことなのだろう。彼の返事にマサキは思った。ひとつ叶えばひとつ求めてゆくようになる。欲望に限りはない。それをシュウは許してはくれない。与えても尚、決して。だからこそ、マサキには見えてしまっている未来がある。
 変わらず距離を取り、付かず離れず、こうした関係をシュウと続けていくだろう未来が。
「あたしたちはちゃんと待ってるからね、マサキ」
 リューネの言葉にマサキはただ笑ってみせた。何を言ったとしても、何をやったとしても、口に出してしまった言葉をなかったことには出来ない。言葉は言霊だ。発してしまった時点から自分と他人を縛る。そうである以上、ここで何を言ったとしても、結局は言い訳にしかならないのだ。
 その後の食事の時間は、他愛ない話をして過ごした。
 食後のティータイム。その指輪に彫られた文言が気にかかったのは、だからだ。サフィーネの態度からして、必ずしもマサキが思っているような言葉が彫り込まれているのではなさそうだ。そもそもシュウ自身が、サフィーネに語って聞かせてぐらいなのだ。だったら見せても問題はないのだろう。
「そういや、ウェンディ。これ読めるか? 古代語らしいんだけどよ」
「自分で買った指輪じゃなかったの? 研究で文献に当たるのに必要だから読めるは読めるけれども……」
 マサキから指輪を受け取ったウェンディは、指輪の内側に目を落とすと、見る間に微妙な顔付きになった。その表情のまま、彼女は指輪に彫り込まれた古代語を読み上げる。

 ――光あるところに闇あり。闇あるところに光あり。幸いあれ! クリストフ

「やっぱり、マサキ。この指輪はシュウからの……!」リューネが勢いよく立ち上がる。「わ、馬鹿、止めろ! 首を絞めるのだけは止めろ!」テーブルを回り込んで背後からマサキの首に腕を絡み付かせてくるリューネに、いつものことと誰も彼も涼しい顔。マサキを庇ったミオは盛大に頭を抱えて深い溜息を吐き出していたが、それでもリューネを止めようとまでは思わないらしい。
「お嫁に行くときは私にちゃんと一言言って頂戴」砂糖を山ほど入れた紅茶を顔色一つ変えずに飲みながら、テュッテイが言い放つ。「色々と支度しないといけない物もあるのだから」
「何を支度するつもりなんだよ、何を! ウェディングドレスでも用意するつもりか!」
「男だってお嫁に行く世の中なのよ、マサキ」
 表情ばかりはにこやかにウェンディ。その胸中は如何ばかりか。想像するだに恐ろしい。
「最近の城下ではダンスだけじゃなく、同性愛小説も流行ってるんですって」
「やだあ、ウェンディ。そういうの興味あるの?」マサキの首をその腕でホールドしながらリューネが訊けば、「友人がそれで小説家デビューしたのよ。そのお祝いに一冊貰ったのを読んだのだけど、これが思った以上に面白くて」頬を染めた。
「危ねえなあ。フィクションを楽しむ分にはいいけれど、現実世界のあれこれにそういったモンを持ち込むなよ」
「だって、マサキ。まんざらでもなさそうなのだもの」口を尖らせて言う。
「ねーよ。ないない。女ってのはなんでホントこういうの好きかね……」
 誰が誰を好きだの嫌いだのそんな話は面倒臭い以外の何者でもないのだ。誰も彼も寄れば触ればシュウ、シュウ。確かに普通の付き合いはしていないけれども、では、そういった意味でのふたりの将来のビジョンが描けるかと聞かれると、今日あった出来事からしてそれは難しいとマサキは思わざるを得ない。そう、結局のところ、マサキにとって、今のままの距離感での付き合いほどに、シュウとの心地よい関係はないのだ。
 ――リーン、リーン……
 そこに玄関扉の呼び鈴が鳴る。プレシアが立ち上がって玄関に向かう。「おにいちゃん、ヤンロンさんがちょっと話したいことがあるって」呼ばれて、リューネの腕を解き、マサキが玄関に向かえば深刻そうな面持ちでヤンロンが立っている。
「どうした? 上がって行けばいいだろ?」
「例の兵士の片方が少しだけ意識を取り戻したそうだ」
「何だって?」
「おかしなことを口走ったらしくてな。念の為にお前に伝えておこうと思って寄ったんだが」
「何を言ったんだ」
「“やったのは自分じゃない。中に何かいる・・・・・・”」
 嫌な予感。ざわざわと。マサキは軽い目眩を覚えて、その場に立ち尽くした。