続々・140字SSにチャレンジした記録 - 5/9

 サイバスターの操縦席の片付けをしていたマサキは、雑誌の束の中に物々しい書籍が挟まれていることに気付いた。自分では決して読むことはないだろう判型。そもそもタイトルからして理解が及ばない。試しに中を覗いてみれば、案の定。欠片も意味が想像出来ない専門用語が並んでいた。
 こんなものを好んで読む人間など限られたものだ。ましてや、わざわざサイバスターの操縦席にまで持ち込むような人間など、あの男意外に誰がいたものか。
 しかしいつ持ち込まれたものであるのか。マサキは記憶を掘り返した。そして、恐らくはあの時のことであるに違いないと見当を付けた。
 それは数か月前のことだった。平原の只中で調子を崩して立ち往生していたマサキとサイバスターに、偶々グランゾンで行きがかったシュウが救いの手を差し伸べてくれたことがある。彼は操縦席に乗り込む許可をマサキに得ると、幾つかの計器を確認しただけで原因を特定したらしい。即座にプログラムを修正してみせると、念の為にウエンディに診せるようにと言葉を残して去って行った。
 その際に、手にしていた書籍をそのままサイバスターの操縦席に持ち込んでしまったのだろう。マサキが計器類の近くに置かれた書籍の存在に気付いたのは、シュウが去ってから一時間以上も時間が経ってからのことだった。
 いつか機会を見て返そうと思っていたのだ。
 それが何故雑誌の束に紛れてしまっているのかはさておき、このまま放置を続けてしまっては、いつか本当に存在を失念して捨ててしまいかねない。幸い今日のマサキは身体が空いている。ならば思い立ったが吉日だ。マサキはシュウを探す為に、サイバスターの起動準備セットアップに取りかかった。
「それでここまで? あなたにしては義理堅いことをされますね」
「てめえにとっちゃ本は大事なもんだろ。そうじゃなくとも他人の持ち物を勝手に処分する訳にもいかねえしな」
「処分してくださっても良かったのですが」
 州を跨いだ先で目指すグランゾンを発見したマサキが、早速と通信モニターを開いてその目的をシュウに告げると、彼はどうやらマサキの来訪を快いものとは捉えていないようだ。どこか浮かない表情で呟くように言葉を吐くと、操縦席の脇から一冊の書籍を取り上げてみせた。
 マサキが届けようとした書籍と同じものだ。
 まさか、とマサキが口を開ききるより先に、どこで失くしたのかわからなかったものですから。と、彼にしては珍しくも、気まずそうに言葉を継いでみせたものだ。いや、気にするなよ。マサキは自分の元にある書籍をモニターに向けて掲げた。
「こっちはどうする? お前がいいってなら処分するが」
「その前にウエンディの所に届けてみてはくれませんか。良くある造りの書籍ではありますが、それでもそれなりの稀覯本なのですよ。もしかしたら彼女が所蔵していない可能性もある」
「つうても、ウエンディの蔵書量も大したもんだぜ。持ってる可能性の方が高くないか」
「もし、彼女が持っている様子でしたら、そうですね……城下の221番街にジェスターという男が経営している古書店がある。そこに持ち込むといいでしょう。今日の駄賃に相応しい金額で買い取ってくれると思いますよ」
「古書店ねえ。価値がわからないものを持ち込むのはどうかと思うが、それがお前の気持ちってんなら有難く受け取っておくぜ」
 シュウが悪戯めいた笑みを浮かべてみせたことに、マサキは少しばかりの不安を感じずにはいられなかったものの、たかだか一冊の書籍の話である。そんな大事になる筈もなし――と、王都へと帰り着いたマサキはウエンディに蔵書の有無を尋ねた後に、221番街の古書店を訪れたのだが。
「10万クレジット!?」
 法外な買取価格。それはシュウもあんな笑みを浮かべもする。予想はしていたものの、駄賃と呼ぶには結構な収入に、借りにしかならねえ。マサキは頭を抱えずにいられなかった。

漢字で創作ったー
kyoへの今日の漢字テーマ【放置[ほうち]/放ったままにしておくこと。置きっ放しにしておくこと】