「何であんなに自信家でいられるんだ」
待ち合わせの時間に遅れること10分。時間厳守を常とするヤンロンの遅刻に思うところはないようで、先にオープンテラスのカフェでアフタヌーンティーと洒落込んでいたテュッティは、皿に四種と積んだケーキを満足そうに頬張りながら、誰が? と尋ねてきた。
「僕たちの周りで自信家という言葉が似合う人間が他にいるなら聞きたいものだな」
「そうは云われてもね」
ヤンロンが名前を口にするのも癪に障ると感じていることに気付いたようだ。頬張ったケーキを咀嚼したテュッティは、苦笑しきりでフォークをテーブルに置いた。次いであなたも飲んだら? とティーポットを掲げてみせる。茶ひとつで収まる気分でもないのだがな。呟きながらも、ヤンロンはウエイトレスに紅茶を頼んだ。
「人生が自分に微笑みかけているように感じている人間というのは、得てしてそういうものよ」
「謙虚さを身に付ける必要もあるだろう」
つい先程、顔を合わせたばかりの人物の自信家ぶりを思い返す。彼は時として思いがけないくらいに好戦的な面を露わにする、上から人を見下ろしているような普段の言動には目を瞑るとしても、いけ好かないと感じるまでの自信家ぶり。日頃は穏やかであろうと節制しているらしい彼が垣間見せる本性は、ヤンロンに警戒心を抱かせるに充分なものたり得た。
それがヤンロンをして、彼と好意的な関係を築けずにいる原因でもある。
せめてもう少しばかり、あの自信家な面を改めてくれれば――自身の性とはいえ、決して万人と好ましい関係を築けるような人間性を有していないヤンロンは、ならば自身の狭い人間関係の中でぐらいは友好的な関係を維持したいと望んでいるのだ。それだのに。
「謙虚でいたら得られないものもあるからじゃないの?」
そう口にしたテュッティが、ほら、と大通りを挟んだ向かい側の広場の奥。時計塔の下を指差した。
どうやらヤンロンと別れた彼は、そこを目的地としていたようだ。人目を引く長躯が、開いた文庫を片手に佇んでいる。彼もまた待ち合わせをしているのだろうか? ヤンロンがその姿に視線を注いで間もなく。彼の顔が上がった。
そこに姿を現わしたのは、ヤンロンの大切な仲間のひとり。見慣れた格好。トレードマークのアリスブルーのジャケットを羽織って時計塔の許へと歩んでゆくマサキの姿を捉えた彼は、ヤンロンでさえもはっとするほど艶やかな笑みを浮かべてみせた。
「だからああも好戦的だと? これだからリア充は」
その程度のことで自分にまで攻撃的に迫られては堪ったものではない。ヤンロンはテーブルに届けられた紅茶を飲み下して、その思いがけない苦さに顔を顰めずにいられなかった。
140字SSお題ったー
kyoさんは【これだからリア充は】をお題にして、140字以内でSSを書いてください。