お題:どこか知らない場所へ
ままならない関係を続けてしまっている。或る時ふと自分たちの周りの人間関係に想いを馳せたシュウは、その人間模様に変化が生じていないことに愕然とした。ふたりの女性に挟まれるようにして過ぎていった日々……その間にシュウとマサキの関係は大きく変化を迎えていたにも関わらず、彼女らの自分たちへの情熱は衰えることを知らないようだった。
どちらも卑怯なのだと思う。
自分たちの関係を公にしてしまえばいいだけのこと。そんなことは頭ではわかっている。わかり過ぎるくらいにわかっている。それでもシュウがその一歩を踏み出せずにいるのは、身位で序列が生じる世界から身を引き、背負うものの無くなったシュウと異なり、魔装機神の操者として表立った立場と地位を築いているマサキの評判に傷が付くことを恐れてしまっていたからだった。
いつから自分はこんなに臆病で小心な性質になったのだろう。シュウはことマサキのこととなると、自分でも信じられないくらいに冷静な判断が出来なくなったものだ。ありきたりな答えを飛び越えた解決策を生み出せるのが、シュウが持ち得た頭脳の力である筈なのにも関わらず、未だに生み出せない唯一解。シュウは迷いを続けている。
――いっそふたりでどこか知らない場所へ行けたなら。
けれどもそんな楽園は、この地底世界ラ・ギアスの何処にもないのだ。悪名が先に立ってしまうシュウに、功名が先に立ってしまうマサキ。それぞれ意味は違えど、名前と顔を知られ過ぎてしまっている自分たちに、二人きりで心安らかに生きられる世界など存在し得ない。もしかすると、こうした付き合いを続けてゆく以上、その往く道に光は差さないのやも知れない。それでもマサキを手放せない自分。シュウはそうして、ひっそりと。誰にも気取られぬように溜息を吐いた。