140字SSにチャレンジした記録 - 6/10

お題:おさえた首元

 平穏な日常。いつも通りにサイバスターに乗り込み遠駆けと洒落込んだマサキは、州をまたいだ見渡す限りの草原で、二匹の使い魔ファミリアとともに大地に降り立った。風、吹き抜ける青空。服を、髪を、風が柔らかく嬲る爽やかな陽気の下、せり上がる大地以外に遮るもののない草原にマサキは身体を横たえた。
 空を見上げていると、白い雲が流れゆきては視界を横切る。この穏やかに過ぎる時間こそが、マサキにとっての贅沢。戦いに明け暮れている魔装機神の操者に対する自然界からの褒美だった。
 ぼんやりと何を思うでもなく空を見上げていると、爽やかな陽気も相俟って、心地良い眠りへと誘われてゆく。マサキの瞼は自然と閉じてゆき、夢ともうつつともつかない映像ビジョンが脳裏に流れ始めた。そこには、当たり前のように騒々しい仲間たちに囲まれて笑っているマサキの姿があった――……。
 すっかり眠ってしまっていたようだった。
 次にマサキが瞼を開いた時、二匹の使い魔の姿はそこにはなく。代わりに隣に珍客が、腰を落として読書に耽っていた。
 シュウ=シラカワ。何故、ここに。とはマサキは問わなかった。どうせサイバスターの姿を見付けて寄ったのだろう。そのぐらいにはいつの間にか親しい付き合いをするようになった相手に、マサキはのそりと身体を起こしながら尋ねた。
「あいつらは何処に行ったんだよ。俺の護衛にもなりゃしねえ」
「その辺りで走り回っていると思いますよ。私が来たなら気兼ねなくここを離れられると、喜んでいた様子でしたから」
「特に用事があるって様子でもなさそうな相手に留守を頼むとはな」
「あなたの使い魔ファミリアですからね」
 風にたなびいている髪の下にうなじが覗いている。再び手元の書物に目を落としているシュウの、思ったより細い首にマサキは手を伸ばした。このまま、この首を絞めたらどうなるのだろう。時折、感じる衝動。忌まわしい記憶は、色鮮やかにマサキの脳裏に蘇ることがあったからこそ。
 地底世界でのマサキの庇護者であり、剣の師匠であったゼオルート。その死。
 マサキの手が首筋に押し当てられても、シュウは顔を上げない。マサキを信用しきっているのだろうか。それともマサキにそうした蛮行が働ける筈がないと思っているのだろうか。僅かな間。出来ない――マサキは手を引っ込めようとした。感心しませんね。その瞬間、シュウは嗤いながらマサキの手を取った。そしてそれが当然のように、何度目か数えきれなくなった口付けを、マサキの口唇に落としてきた。