続々・140字SSにチャレンジした記録 - 7/9

「徹夜三日目だって?」
 グランゾンの分解メンテナンスに手を付けること四日目。それまで自機のメンテナンス作業を見守るだけだってマサキは、唐突にグランゾンに与えられているブースに足を踏み入れてくると、作業に勤しんでいる担当整備員メカニックたちを押し退けるようにしてシュウの眼前に仁王立ちとなった。
「まだ三日、ですよ、マサキ」
 煤けたパーツを洗浄して組み直す。言葉にすればたったそれだけの作業でも、巨大な機械の塊ともなれば膨大な手間となる。司令部に許可を得て一週間の作業工程を組んでいるとはいえ、戦列復帰にかかる時間は短い方がいい。シュウにとって自身の徹夜は、作業を短く済ませる為に払うべき当然の代償コストである。
「それにしても、どういった風の吹き回しです? わざわざ足を運んでみせるとは、そんなにグランゾンの内部構造が気になりますか」
「そういう意味じゃねえよ。いい加減に寝ろ。こっちは心配してんだ」
「これはまた妙な話もあったものだ」シュウは嗤った。「あなたが私を心配するなど」
整備員メカニックたちの間じゃてめえの話題で持ちきりだ。自分たちを休ませておきながら、当の本人は休むことをしないってな」
 当然ですね。シュウは作業の手を休めることなく続けた。
 分解したパーツを作業台に乗せ、それを更に部品単位で分解してゆく。細かく分けれた部品は整備員メカニックたちによって特殊溶液で洗浄され、再びシュウの元に戻される。その再組み立てを行うのは勿論シュウだ。
「私の我儘で始めたこと。それに付き合わせているのですから、彼らの休みを私が保証するのは当然のことでしょう。ですが、それで納得がいきましたよ。あなたが自発的に私を心配するなど有り得ない」
「同じ部隊に属してともに戦場に立つ以上、お前であろうが味方には違いねえ」
 憮然とした表情でマサキが口にする。そして、のらりくらりと話をはぐらかすシュウに堪忍袋の緒を切らしたようだ。次の瞬間には問答無用でシュウの上着の襟元を掴みあげると、自身の方へとその身体を引き寄せて、 
「忘れるんじゃねえよ。こっちはてめえに命を預けてるんだ」
 間近に在る、苛烈な瞳。
 薄く膜を張った角膜の奥で水晶体が揺らめいている。黒い瞳を持つ日本人は、感情の動きが瞳に現れることは稀だ。けれどもマサキは違う。シュウはその瞳をまじまじと眺めた。色を薄くした瞳の中に、自らの顔が映っている。
「無事に戦列に復帰出来る日が来たら寝ますよ」
 我ながら嫌味な笑顔だとシュウは思った。
 それがマサキを更に激高させたようだ。彼はシュウの身体を突き飛ばすように襟元から手を離すと、そんなのは当たり前のことなんだよ。吐き捨てるように口にして、いいから寝ろ。そう言葉を残すと、自身の機体の整備は終わっているのだろう。格納庫バンカーを後にしていった。

台詞で創作ったー
kyoさんは『心配してんだよ』という台詞を使って、絵または漫画、小説を描いて(書いて)ください。