140字SSにチャレンジした記録 - 7/10

お題:日常崩壊寸前

 流れる川面に差し込む光が乱反射している。
 賑やかで時に騒々しいいつも通りの顔ぶれで、川辺の土手にピクニックに来ていた。ほら、行くよ! 珍しくも酒に手を伸ばさずにいるベッキーがプレシアを相手にバトミントンに興じている。そこに、あたしも! と云いながら、ミオがゲンナジーを引っ立ててゆく。賑やかでいいことだねえ。山ほどサンドイッチをこさえてきたシモーヌは、それを一番大量に消費してくれる相手がいなくなったことに不安を感じているようだ。物憂げな表情でそう吐き出した。
 僕らで消費するから気にするな。ファングやアハマドを相手に杯を重ねているヤンロンが、この男にしては目ざとくも気の利いたことを口にした。どういう風の吹き回しだよ。マサキが尋ねれば、つまみが足りん。アハマドがそう云って酒を煽る。ホント、あなたたち飲むの好きよねえ。そこに丁度、リューネととともに河原の散策をしていたテュッティが戻ってくる。ふたりとも一様に呆れた表情をしているものの、それが自分たちの日常だとわかっているのだろう。無粋に酒飲みたちを止めたりはしない。クッキーを焼いて来たのよ。マサキも食べる? テュッティが置いていたナップザックから大きなタッパーを取り出してくる。
 俺は先ず飯だ。マサキは笑った。腹が溶けそうな甘さのクッキーよりも食事を欲している腹の具合に、少し貰うぜ。云いながらシモーヌ製のサンドイッチに手を伸ばす。有難いよ。作り過ぎちゃってね。きつい印象を受ける外見とは裏腹にかいがいしい性格をしている彼女は、自らの気遣いを悟らせない為だろう。そう云って嬉しそうに笑った。
 わー、美味しそう! あたしも食べる! 幾つものバスケットに詰め込まれたサンドイッチに、リューネの手が伸びてくる。色気より食い気だよな。ぽつりとマサキが呟いた言葉は、幸いというべきか。彼女の耳には届いていないようだ。
 ゆったりと過ぎてゆく時間。日々顔を合わせている割には、改めて何処かに出掛ける機会の少ないマサキと仲間たちにとって、たかだかピクニックといえどもそれは充分に大きなイベントだった。だというのに。そこに近付いてくる生え伸びる草を踏みしめる足音。マサキは顔を上げた。見知った長躯が悠然とこちらに向かって歩んでくる。
 嫌な予感しかしねえ。マサキは突然の来訪者に、胸が騒ぐのを止められず。
 彼が姿を現わす時はいつもそうだ。ラングランの国益に関わりかねないような問題が生じている時ばかり。確かにご機嫌伺いといった別の用件も考えられたが、よもやピクニックに興じている一団を見付けて、仲間に入れてくれと云い出すような性分でもあるまい。マサキは眉を顰めながら彼の言葉を待った。
 ――探しましたよ、皆さん。
 それは日常の終わりを告げる言葉。やっぱり、とマサキは表情を引き締めた。その場にいる他の仲間たちの表情も、途端にその様相を変えている。誰しも考えることは一緒とみえる。その予感は外れてはいなかったようだ。彼はマサキたちに続けてこう告げた。あなたたちの力を貸して欲しいのです、と――。