お題:愛に近い執着
王都にある喫茶店で、リューネやミオといった女性陣の買い物の荷物持ちと付き合わされたマサキは、そのご褒美代わりに昼食を奢ってもらっていた。好きなだけ食べていいよ、と云われても、腹に入る量には限りがある。チキンのたっぷり入ったサラダにチーズが山ほど乗ったドリア、酸味の効いたオレンジジュースに生クリームが零れそうなストロベリーパフェ。食事を終えたマサキはドリンクのお代わりを頼みながら、女性陣の終わりそうにない世間話に耳を傾けつつ、窓の外を眺めていた。
行き交う人の群れ。王都はいつでも賑やかだ。
闇が天蓋を覆うことのないラ・ギアスは昼と夜の境目が曖昧だったからこそ、王都といった大都市にはいつでも歓楽を求める人々が溢れている。いずれまた足が棒になり、腕の感覚が麻痺するまで、荷物持ちとして扱き使われるのだろう。そんなことを考えながら、ぼんやりと。窓の外を流れてゆく人波に目を遣っていた矢先に。
視界の隅を、見覚えのある長躯が過ぎった気がした。
途端に跳ね上がる鼓動。今や彼が敵となることはない。わかっていても背中を汗が伝う。そもそも指名手配犯であるが故に公に動き回れない彼が、あんなに堂々と姿を晒して王都を歩いている訳がない。だのに目にしてしまった姿に動揺を隠せない。ちょっと待っててくれ。マサキは女性陣にそう云い残して、店の外に出た。
短い距離を、彼が消えた方角に向かって走る。途中で通りすがる相手に肩がぶつかることもあったが、それにも構わずに一直線に。そして、通りの向こう側。その長躯を再び目にしたマサキは、それが全くの赤の他人であることに気付いて足を止めた。
脱力感、果てしない。
そこにミオが追い付いてくる。どうしたのよ、いきなり。云われたマサキは首を振った。馬鹿々々しい。あの男を追いかけてどうなるというのだ。いつだって情勢は容赦なくマサキたちを飲み込んで、戦場へと引き立ててゆくものなのに。
ラングランの動乱は彼の所為ではない。ゼオルートの死も彼の意思ではない。あれからどれだけの戦場をマサキは駆け抜けただろう。だのに追いかけずにいられない。胸を駆り立てられずにいられない。
執着。そう、マサキは未だ彼に対して未練がましいまでに執着している。
そこにシュウが居たような気がしてよ。マサキがそう答えると、ミオは呆れたような表情になった。愛だね、愛。続けて溜息とともにそう吐き出す。お前はまたそうやって。いつも巫山戯るようにしてマサキを揶揄ってくる彼女は、機会さえあればそう口にしてマサキとシュウの仲を囃し立てるのだ。
けれども、この時のミオは違った。次の瞬間、やけに真面目に表情を引き締めてみせると、
――だってそうでしょ。憎しみは愛がなきゃ生まれないのよ。