140字SSにチャレンジした記録 - 9/10

お題:独り占め

 青い空に緑豊かな大地、そして色取り取りのカラーリングも鮮やかな魔装機の数々。人工的な色彩が自然と調和し、その有り様は瞬きが出来ぬほどに美しい――シュウはそれを間遠にしたグランゾンの操縦席からモニターを通じて眺めていた。
 どうやら合同演習のようだ。王立軍を従えて布陣を敷く魔装機神たちは、やがて一機、また一機と王立軍の小隊を率いて西へ東へと移動を始めた。遣り取りされている通信を傍受するに、複数の陣営が入り乱れた魔装機による集団戦闘を想定した模擬戦が行われるらしい。見て行かれます? シュウの肩に乗って、その様子を一緒に眺めているチカが云った。
 いや、結構ですよ。シュウはグランゾンの移動を開始した。
 次第に機影を小さくしてゆく魔装機の群れ。それはやがてモニターの視界からも姿を消した。当たり前のことである筈なのに、その瞬間、ざわざわと胸がさんざめく。出来ればもう少し、あの美しい光景を眺めていたかった。シュウは今更に自らの乏しい感情が求めているものの正体に気付かされたが、チカに見ないと云ってしまった以上、わざわざ戻ってまで再び目にするのも気が引ける。
 数多の魔装機の中でも抜きんでた性能を誇る魔装機神。分けても風の魔装機神の能力は群を抜き、新たに開発された数多くの魔装機ですら追随を許さぬほどだ。戦場に立つ白亜の大鳳、サイバスター。かつてのシュウを虜にした機体の特徴的な形状フォルムは、あれだけの数の魔装機の中にあってもひと目でそれと知れた。今となっては自らの手足たるグランゾンを手に入れてしまっているシュウにとって、一番美しい機体は愛着の湧いた自機であると云えるけれども、それでも心の片隅には常に風の魔装機神サイバスターの存在がある。まだ年若い操者を手に入れた気紛れな風の精霊サイフィスは、彼を絶対的なパートナーとして、これまで数多くの戦場を駆け抜けてきた――。その事実に嫉妬をするぐらいには、シュウは風の魔装機神に思い入れがあったのだ。
 とはいえ、今、シュウが感じている思いは、それとはまた違った種類の妬みである。
 ああして公に側に立つ数多くの仲間が彼にはいる。それは魔装機の操縦者たちに限らない。リューネ然り、ウエンディ然り、お転婆な従妹たるセニアとてそのひとりであったし、近衛騎士団や王立軍もそのひとつであった。絶対的な強者として魔装機の頂点に君臨する操者たる彼、マサキ=アンドー。その現実が、まるで薔薇の棘のようにシュウの胸に刺さった。
 けれども、それは彼の立場に対する嫉妬ではないのだ。
 シュウは彼の周りにいられる味方に対して嫉妬をしていた。いついかなる時でもマサキの側に立つことを許されている数多くの味方たちに。
 それは独占欲の発露に他ならない。子供じみた欲であることを自覚していながらも、シュウはマサキを占有したくて堪らなくなる瞬間がある。ああして数多くの味方に囲まれている彼を見てしまった瞬間もそうであったし、彼が無邪気に仲間について語るのを目の前にしてしまった瞬間もそうだ。そんな風に彼が自分の側に立つことがあるだろうか? あるいは自らのことを仲間たちに語ることが――……シュウはそのままならない感情に嘆息し、そしてグランゾンの操縦席のシートに深く身体を埋めるより他になかった。