アイスクリン - 1/2

(前)

 懐かしい味がした。
 ミオが作って持ってきたアイスクリームは、マサキが子どもの頃に母親が作ってくれたアイスクリームによく似ていた。ざらついた触感。甘くはあったものの、コクに物足りなさを感じる。何とも表現し難い素朴な味わいのアイスクリームは、けれども子どもだったマサキにとって、どんな駄菓子にも敵わないデザートだった。
 それをミオに話して聞かせれば、そりゃあそうよ。彼女は訳知り顔で云う。
「あたしたちが子どもの頃、流行ったもん。どこのお母さんも手作りアイスって。あたし、それが羨ましかったから、おばあちゃんに頼んで作ってもらったのよ」
 卵と牛乳と砂糖とバニラエッセンス。特別な材料は何もない。全部を一緒くたに混ぜて冷凍し、一時間ごとに取り出しては、固まりかけたアイスクリーム液に空気を含ませるべく掻き混ぜてゆく。半日がかりのアイスクリーム作り。空気が入れば入っただけ触感が市販のアイスクリームに近付くとあって、マサキの母親などはよくマサキにも掻き混ぜるのを手伝わせたものだった。
 その瞬間にふわりと漂ってくるバニラエッセンスの甘い香り! 記憶の中の匂いと触感、そして味を、ほぼそのまま再現しているミオのアイスクリームは、マサキの記憶を強烈に刺激した。泣きたくなるような味だな。不意に思い出される家族の思い出。ぽつりとマサキが口にすれば、本当にね。ミオもまたぽつりと言葉を吐いた。
「でも不思議よね。同じ材料を同じ分量で、しかも同じ手順で作ってる筈なのに、おばあちゃんのアイスクリームとは味が違うのよ。あっちの方がもっと甘かった記憶があるんだけど……」
「子どもの頃ってそんなに甘い物を食わせてもらえなかったしなあ。その所為じゃないか?」
 大きなタッパに山と作られたアイスクリームを、そうしてミオとふたりで食べきったマサキは、冷えて痺れる舌を紅茶で温めながら、ミオとふたり。互いに滅多なことでは口にしない子どもの頃の思い出話に花を咲かせた。
 魔装機神を駆って西へ東へ。今日を生き抜くことに精一杯なマサキには、後ろを振り返る暇などそうない。
「偶にはこんな話をするのもいいもんだな」
 マサキはミオを見て笑った。
 父がいて母がいたあの頃。温かに胸を占める思い出を、明日を生きる糧として振り返る。昨日までの自分と今日までの自分に大きな差はなかったけれども、優しい気持ちで過去を振り返れるようになったぐらいには、マサキにとって子どもの頃の記憶は昔のものとなったのだ。
 ラ・ギアスに召喚された頃のささくれだった感情を持て余していたマサキ=アンドーはもういない。
 サイバスターとともに戦い続けた自信がマサキを変えた。二度と同じ悲劇を繰り返さない。胸に刻んだ誓いは今でも尚、マサキの胸に刻み込まれている。それを明日への活力として、また一から始めよう。マサキは懐かしいを味が残る口の中を、舌でそっと救い上げた。

あなたに書いて欲しい物語
kyoさんには「懐かしい味がした」で始まり、「また一から始めよう」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以内でお願いします。