シュウとチカの二人はシグルイ

 それは八甲田山の山あい、霧深き谷での出来事。
「ご主人様ご主人様あああああっ! レーダーに反応ですよっ!」
 昼尚暗く、陰鬱な雰囲気に包まれた山間部。過去に命を落とした兵士の怨念渦巻く幽玄の地で、シュウとチカはグランゾンを休めていた。
「どうやらティターンズ軍のようでございますよ」
 かのような因縁ある場所を選んだのは二人の趣味である。断じて趣味である。決して他意はない。
「これは盛大な歓迎ですね……」
 チカの呼び声にシュウがメインモニターを覗くと、その数、百に届かんという機影が木々を薙ぎ、草を焼き払いながら迫り来る様子が窺えた。――面白い。ひっそりと嗤うシュウの横顔に、盛大な戦の予感を感じ取ったチカは身悶えしながら叫ぶ。
「素敵なパーティにご招待ってとこでございますね、ご主人様!」
「ええ、チカ。ここは是非とも祝砲を鳴らして差し上げなければなりませんね……」
「勿論ですとも、ご主人様!」
 意気軒昂と声を張り上げるチカのやる気は充分だ。使い魔の頼もしい言葉を受けて、シュウの口元より笑い声が零れ落ちる。それは冷徹で、残忍で、何より気高い響きで以って辺りに木霊した。
「では参りましょうか、ご主人様!」
 今まさに初撃を繰り出そうとビームサーベルを振り上げたバウンドドックを見て、チカは声高らかに宣言する。
「下賎な輩に神の裁きを!」
 開戦の火蓋を切って発射されるのはワームスマッシャー。黒い斬戟が谷間を縫って駆け抜けてゆく。
「ひゃーはっはっはっ! 落ちます、落ちますよそれはっ! 流石ですご主人様、初撃から情けも容赦もへったくれもありません!」
 その砲撃が密集する敵機を纏めて射抜く。
 数十の敵機は一瞬にして墜とされた。
「では、少々手加減しましょうか」
 言葉と共に繰り広げられるのは黒い衝撃波、グラビトロンカノン。空間を歪ませつつ四方八方に展開してゆく。
「ひゃーはっはっはっ! 全然手加減してませんよ、ご主人様ってば! 皆様纏めて次元の彼方へご招待とはお優しい!」
 その突如発生した重力波に押し潰された敵機は、次々と巨大なエネルギーで生み出された時空の歪みへと吸い込まれてゆく。「さあ逝っておしまいっ!」チカの絶叫に呼応するように、数十の敵機は一瞬にして姿を消した。
 僅かな時間で兵力を大量に奪われれば、誰であっても分が悪いと察するだろう。脱兎の如く谷間を縫って撤退を開始したティターンズ軍をこのコンビが見逃す筈がない。
「あらあらご主人様、あいつら逃げるつもりですよ? ケンカを売っておきながらいい度胸だと思いません?」
「勿論ですよ、チカ。中途半端な振舞いは身を滅ぼすと教えて差し上げなくてはなりませんね」
 チカが焚き付ければ、それに応えてコントロールパネルを叩くシュウ。エンジンがうねりを上げて炎を噴き出せば、グランゾンは風をも越える勢いで前進する。
「逃げ切れると思いますか?」
 ネオ・ドライブ――光速移動のグランゾンを、人間の視覚で捉えるのは不可能。逃げ惑う敵機からすれば、突如として目の前に出現したグランゾンは時空を超えて移動してきたように映ったに違いない。
 青銅の機体は前を行く敵機を追い越し、その前に回りこむ。退路を塞いで立ちはだかるグランゾンに動揺したのか、ティターンズ軍は蜘蛛の子を散らすように四方八方へと散開した。
 ある者は山を駆け上がり、ある者は谷を馳せる。またある者は空中を目指し、ある者は果敢にも正面突破を狙う。統制が取れなくなった光景を眺めながら、シュウは正面突破を挑んできた敵機を次々と黒金の剣で薙ぎ払いながら、胸部の砲門を開く。
「安らかなる眠りを愚者に」
「ひゃーはっはっはっ! 安らかどころか一生目が醒めない素敵な眠り!」
 空間を裂き、異界へと誘う時空砲――ブラックホール・クラスターが周囲に散らばる機体を呑み込む。
「砕けろ砕けろ虫ケラどもおおおおっ!」
 逃げ惑う敵機の全てがその瞬間、この世より消滅した。
 辺りに残ったのは焼けた木々と幾許かの残骸。原形を留めているのは山のなだらかな斜面のみといった燦々たる世界に、陽光を背にしたグランゾンはようやく剣を納め――鮮血が生々しく飛び散る地上をモニター越しに見下ろしたチカは、小さな身体と胸を奮わせる歓喜に咆哮せずにいられない。

「お美事! お美事にございますよ、ご主人様ああああっ!」

 そして新たな仲間を迎えるべく機体の残骸に群がった軍服の亡者達は、新たな憩いの場所を求めて空へと飛び立つ青銅の魔神に深い感謝の気持ちを込めて――頭を垂れる。