ベッド・メイキング

 彼の義妹は家事能力に於いては優秀な少女であろうと思っていたが、その技能を義兄を授ける能力には欠けているようだ――と、目の前に広がる惨状にシュウは思わずにいられなかった。
「やらせろと云ったのはあなたなのですがね、マサキ」
「出来ると思ったんだけどな」
 寝室の大半を占めている特注サイズのベッド。そこに洗濯をしたシーツを張ると云ったのはマサキだった。
 皺が寄ったシーツはベッドに対して斜めに掛けられている。まるで寝起きのような様相を呈しているシーツに、シュウは己の目に異常が起こったのではないかと何度か見直してみるも、やはりそこには奇妙に波打つシーツが存在しているだけだった。
「出来ると思った、ですか」
「家ではプレシアがやってくれるからよ」
 どうやら世話焼きな彼の義妹は、義兄を躾けるより先に自分が動いてしまうタイプなようだ。
 ――この兄妹はお互いに対して過保護であるにも限度がある。
 シュウは溜息を吐いた。市井に下ること数年。何もせずとも部屋が整えられ、テーブルに着けば食事が出てくるといった生活を送っていたシュウであっても、ベッドメイキングぐらいは出来るようになっている。だのに、ラ・ギアスに召喚されて同じくらいの歳月が経っているマサキが、よもやそれさえも出来ない有様であるとは。
「そういう言い訳が通じる状態ではない有様だと思うのですが」
「このベッドのサイズがでかいからだろ。端から端に手が届かねえ」
 確かにシュウのベッドのサイズはかなりのもので、通常サイズのベッドと比べるとシーツのセットがし難くはあったが、それでもシーツを真っ直ぐにセットするぐらいは出来るのではないだろうか。シュウは疑問を抱えながらも、それをマサキにぶつけたところで何も解決はしないとシーツに手を伸ばした。
 流石にこの状態のシーツの上に横になるのは身体が落ち着かない。
 慣れた作業を手際よくこなしてゆくシュウに、大雑把な性格であるが故に不器用さを発揮し始めるマサキは、感心するよりも呆れが先に立ったようだ。「そんなに細かくシーツを動かさなきゃならねえのかよ」などとごちている。
「どうせまた直ぐ乱れるのにな」
「乱して欲しいのですか」
 シーツの位置を正してマサキを振り返れば、シュウの言葉の意味に思い至ったようだ。そういう意味じゃねえよ。どこかぎこちない仕草でシュウから顔を背けたマサキに、あなたは寝装が悪いですからね。シュウは云って、クックと嗤った。