夜の帳が深く下りて、辺りを闇に包み込む頃。先にベッドに入って読書をしていたシュウは、ようやくテレビを見終えたようだ。寝室に姿を現わしたマサキに、ベッドの端に寄った。
「寝ますか」
「寝る」
もそりとブランケットの中に潜り込んできたマサキが「今日は俺な」と、シュウに腕を伸ばしてきながら口にする。本を畳んだシュウは、珍しいこともあるものだ――と思いながら、彼の腕に頭を預けて横になった。
「寂しいのですか」
「いや、単純に抱き枕が欲しくなった」
シュウの頭を自らの肩口に引き寄せたマサキが、腰の辺りに足を絡ませてくる。まさしく抱き枕。シュウは声を出して笑いそうになるのを堪えながら、「それを寂しいと云うのでは?」とマサキに尋ねた。
体温が高い彼と寝るのは、シュウにとっては決して心地の良いものではなかった。
冷えた肌に感じる温み。通年、温暖な気候のラングランでは、寒さに凍えて暖を取るということがない。マサキの体温のお陰で自らの寝汗に驚いて目を覚ますことの多くなったシュウは、けれども彼とベッドを分けて寝ようとは思わなかった。
単純に寂しいからだ。
誰かとベッドをともにして眠る夜を知ってしまうと、ひとりで眠るベッドがどうしようもなく広く感じられるようになった。だからシュウは、きっと今晩も何度か目を覚ますことになるのだろうと思いながらも、マサキと肌を合わせて眠る。
「お前、抱き枕使ったことあるかよ」
「ないですね。強いて云えばあなたが抱き枕の代わりですが」
程良く筋肉の付いた体躯。そこに身を預けて、他愛ない会話に時間を費やす。
その幸福。
たったそれだけで人は満ち足りてしまえるのだと、シュウはマサキと同じ時間を過ごすようになったことで悟った。
「腕が疲れないんだよ。横になって寝てても」
「高さがあるからですね」
「そうなんだよ。しかも足も疲れねえ」
シュウは抱き枕を所有したことはなかったが、硬いマサキの身体と比べて格段に抱き心地が良いだろうことは想像が付いた。それでも、私はマサキがいい。彼の肩口に頭を寄せて、その温みを感じる。
「それで私を代わりにしようと思ったのですか」
「嫌かよ」
「いいえ。ただ、抱き枕とは抱き心地が大分違うと思いますが」
「いいじゃねえかよ。つまらないこと気にしやがって」
マサキの顔が、シュウの髪の中に埋もれてくる。
身を寄せ合うようにして眠るのは悪くない。シュウはゆっくりと瞼を閉じた。
「俺が、お前がいいって云ってるんだからよ」
「やはり、寂しいと云っているように聞こえますよ」
「ねえよ。ないない」
「そうでしょうか」
その瞬間、微かにシュウを抱くマサキの腕に力が篭った。
「こんなに側にいるのに、寂しい筈がないだろ」
軽い笑い声混じりの力強い彼の言葉に、そうですね。シュウは頷いて、
「なら、精々それらしく抱かれていることにしましょう」