巻き込まれ系男子たちの胸焼けスイーツチャレンジ

「……本気でこれを食べるのか」
 どうやら自分が場違いな場にいることを自覚しているらしかった。丸テーブルに顔を揃えたマサキたちの中央で、ヤンロンが頭の痛そうな表情をしている。
「お前と意見が合うとは思わなかったぜ、ヤンロン」
 それはマサキも同様だった。
 目が覚めるような白いテーブルクロスの上には、テュッティとミオが取り集めてきたスイーツがこれでもかと並んでいる。ケーキにガレット、クッキーにパルフェ、パンケーキ。そしてアイスクリームにシャーベット……九十分一本勝負のスイーツバイキングの情報を仕入れてきたのが、ふたりの女性の内のどちらであるかをマサキは知らなかったが、絶対に元を取ると息巻いていた彼女らの意気込みはポーズではなかったようだ。
「この非常識な光景を目の前にして、お前と意見が合ってもな」
 女性ふたりで行くのが恥ずかしいという、冗談としか思えない理由。ヤンロンとともにバイキングの会場に連れて来られたマサキは、会話をする時間も惜しいとばかりに口の中にスイーツを詰め込んでいる右隣のミオの様子を横目で窺った。
「あみゃいものは……乙女の……栄養素……ッ……」
「そうよね、ミオ。あー、美味しい。幸せ。九十分間も食べていいなんて」
 その更に右隣では、ホールケーキに見立てているようだ。バイキング用の大皿に種類様々なケーキを円形に並べたテュッティが、幸せそうな表情でフォークに刺したケーキを口に運んでいる。
 恐ろしいことに、これで、取り敢えず――なのだそうだ。
 普段の食事は当たり前の量しか口にしなかいテュッティだが、甘いものとなると態度一変。その細身の身体のどこにそれだけの量が詰め込めるのかといった量をさも当然とばかりに平らげてみせる。その彼女からすれば、大皿に並べたケーキぐらいは大した量ではないのかも知れない。
「お前は食わないのか、マサキ。もう料金は支払ってしまったのだろう?」
「いやー……もうこれだけで、腹いっぱいってか……」
 ヤンロンの言葉にマサキは視線を宙に彷徨わせた。
 穀物の味わいが甘味を抑えてくれる小ぶりのパンケーキが二枚。マサキが最初に手にしたスィーツは、まだその量を殆ど減らしていない。
 対策はしたのだ。
 せめて元は取ろうと、朝からここまで何も食べずにきた。だが、テュッティやミオのように甘味に特別な感情のないマサキにとって、それは意味のない我慢であったようだ。
 とにかく、しょっぱいものが食べたくて堪らない。そう、空腹が限界を超えたマサキが求めているのは、スィーツではなく真っ当な食事。視界いっぱいに並ぶ溢れんばかりのスィーツは、胸をむかつかせる。常識的なマサキの胃袋は、ひたすらに米とおかずを求めていた。
「てか、お前は食べないのについてきたんだな」
 それでも取ってしまった以上は――と、マサキは生クリームをよけた上でパンケーキを口に運んだ。
「万頭や月餅があれば、少しは食べる気にもなったが、この有様ではな」
「それが正解だな。俺は元が取れる気がしねえ」
 生地に味が付けられているようだ。微かな塩気が舌に沁みる。
 きっと、塩気で甘味を引き立てようとしているのだろう。アメリカの片田舎で焼かれたような素朴な味がする。美味い。マサキは続けてもうひと口、パンケーキを口に運んだ。
「シャーベットならそこまで甘くもあるまい」
「あー、確かにな。そこで元を取るか……」
 ヤンロンの言葉に尤もだとマサキは席を立ち、ありったけのシャーベットをグラスに集めて席に戻った。そうして早速と、片っ端からそのシャーベットを胃袋に収めていく。
 さっぱりとした味わいは、思いの外食べ易い。すとんと喉を通る。だが、しょっぱさを求めているマサキの舌を満足させる味ではなかった。
「どうだ、味は」
「美味いが、今欲しいのはこれじゃねえな」
「成程」
 今はただ、味の濃いおかずが恋しくて仕方がない。
 ステーキ、から揚げ、焼き魚……山盛りの白米に、味噌汁。マサキの脳裏に浮かぶメニューの数々。矢鱈と日本食が思い出されるのは、スィーツ的な甘味の対極にある味であるからなのだろう。
「これが終わったら、すき焼きでも作るかな」
「ほう。僕もそのご相伴に与りたいものだ」
 もう見ているのも嫌なのだろう。ぺろりと大皿いっぱいのケーキを平らげたテュッティから露骨に目を逸らしたヤンロンが、瞳の奥に微かな喜びの色を浮かべながら口にする。
「金は出せよ」
「勿論。なんなら僕が鍋を振ろう」
「何度も食わせた割には覚えねえな。すき焼きの鍋は振るもんじゃねえ」
「冗談だ」
 しらと云ってのけたヤンロンが紅茶を啜る。
「その前に、元を取らねえとな」
 マサキは空になったグラスと、半分ほど更に残っているパンケーキを目の前に袖を捲った。後の愉しみが出来たことで俄然やる気が出た。無理はするなよ。僅かに眉を顰めたヤンロンに、育ち盛りを舐めんなよ。そう云い返して、マサキは早速とパンケーキを口に放り込んだ。