強く輝ける光であれ

 最後の敵を地に沈めたシュウは血に濡れた剣を片手に、累々と続く屍の中、少し離れた草むらに倒れ伏しているマサキの許へと向かった。
 どうやら敵に盛られた痺れ薬の効果がまだ切れていないようだ。声もなく悶えていたマサキが、気力を振り絞って面を上げる。シュウはその鼻先に彼より借り受けた剣を突き立てた。
 屈辱に塗れた瞳がシュウを見上げている。その視線を冷ややかに薙ぎ払って、シュウは平坦に云い捨てた。
「無様な姿を晒すにも限度がありますね、マサキ」
「うる、せえ……」
 自らの慢心が招いた事態であっても、見下されるのは嫌と見える。上半身を起こしたマサキが剣の柄を握って、それを支えに立ち上がろうとするも、まだまだ薬の効果が切れるのには時間がかかる筈だった。案の定、ずるりと姿勢を崩して草むらに埋もれたマサキに、やはり――と、シュウは溜息とともに手を差し出した。
「支えが必要ならば手を貸しますが、どうします」
「冗談じゃねえ。ひとりで立ってみせる」
 彼らがマサキを付け狙っていたのには気付いていた。少し離れた所から様子を窺っていたシュウは、マサキが手にしていた飲み物に、近くで談笑していた男が薬物を混入するのも目にしていた。
 目にしていたのならば何故――痺れ薬を盛られたことにも気付けず、彼らの挑発に乗ったマサキが危機に陥ったところで、彼らの前に姿を現したシュウにマサキはそう云った。
 何故も何も、それが彼ら――魔装機神操者たちの因縁だったからだ。シュウに関わりのある問題であったならば、シュウは始まりの時点でマサキの手から飲み物を叩き落している。そう、事前に入手していた情報で、マサキが盛られた薬が痺れ薬だと知っていたシュウは、自らに関わり合いのない因縁であったからこそ、限界まで彼らの戦いに介入しなかっただけだ。
 彼らが抱えている因縁とシュウの抱えている因縁は、必ずしも重なり合うとは限らない。そうである以上、自らの因縁で手一杯なシュウが彼らを助けてやれるのには限度がある。シュウからすれば、彼ら――魔装機神操者たちは輝ける光なのだ。ならず者同様に、在野の戦士として戦い続けるシュウが手を貸すような立場に彼らはない。
 この程度の事態ですら処理出来ないようでは、この先、激化を辿る戦場で生き抜くのは困難になるだろう。シュウは冷ややかな視線をマサキに注ぎ続けた。彼らには自らの力で前に進んで行ってもらわねばならない。シュウが時に彼らに冷淡であるのは、それが救世の戦士である彼らの命を無駄にさせない唯一の解だと信じているからでもある。
 それでも。と、シュウはマサキの腕を掴んだ。これから夜を迎えるラングランの大地に彼をひとり残してはゆけない。
「何だよ。ひとりで立つって云ってんだろうが」
「流石は魔装機神操者。そうでなければ――と、云いたいところですが、薬の効果が切れるのを待っていては、夜になり兼ねない。獣に襲われて死ぬあなたを見るのは御免ですよ、マサキ」
「獣と云やあ、さっきから獣の唸り声が聞こえやがるんだ。これは何だ」
「その痺れ薬には幻覚・幻聴作用もあるのですよ。むしろそれだけのハンデを背負って、良く戦ったと云うべきなのでしょうね。死ななかったのは流石です」
「手も貸さなかった奴が良く云う」
「御冗談を。きちんと全員仕留めて差し上げたと云うのに」
 身を屈めてマサキの脇に頭を通したシュウは、マサキの身体を背負うようにして担ぎ上げた。恐らくシュウの行動を身勝手に感じているのだろう。不満を感じているのがありありと窺えるマサキの両の眼。目は口ほどに物を云うとは良く云ったものだが、マサキに関してはそれが顕著だ。
 だからといって、思うように身体を動かせない状態ではさしものマサキも抵抗出来ないようだ。大人しく担がれたマサキが、そこで力尽きた様子で頭を垂れる。
「もうじき陽も暮れます。行きますよ、マサキ」
 まだまだ彼らには経験が足りない。マサキを引き摺るようにして平原を歩き出したシュウは、彼らの前途に続いている苦難の道のりを思いながら暮れなずむ平原を往った。