思い描く明日

 戦いが日常ともなると、その谷間に訪れる暫しの休息にすら、有難みを感じられるようになるものだ。
 出撃を終えた機体が全て着艦を終えて戦場と化した格納庫バンカーの片隅で、まだ荷解きの済んでいない資材の上に腰を落ち着けたシュウは、グランゾンの整備を担当している整備士メカニックたちの訪れを待ちながら、次の出撃に備えて暫しの休息を取っていた。
「この戦いが終わったら、君は何をするつもりだい、マサキ」
 戦いの盤面が終局に辿り着きつつあることを肌で感じ取っているのだろう。艦の方々で頻繁に聞かれるようになった誰かの問いかけに、人々は様々な答えを返したものだ。故郷の両親への孝行、恋人とのデート。中断している勉強を再開すると答えたものもあったし、先ずは友人と遊ぶと答えたものもあった。
 いずれにせよ、再び戦場に戻ると答える者は稀だ。
 誰も彼も好き好んで戦場に身を置いている訳ではないのだ。それしか手段がなく、それしか自らに与えられた力がないからこそ彼らは戦場に集っている。シュウは我が身を振り返った。自身が思い描いた未来に辿り着くべく、戦う道を選んだ自身。それは彼らにしても同様である。
「俺か。俺はラ・ギアスに戻ってから考えるかな」
 彼が歩んでいかなければならない道は長く、果てしない。シュウは深く目を瞑りながらその言葉を聞いた。
 ラ・ギアス世界の秩序を守る為に生きることを選択した少年は、その日の為に生かされているといっても過言ではなかった。世界に選ばれた依代。彼は自らが背負ってしまった悲哀の深さに気付いていないのか。それとも敢えてその過酷な現実から目を背けることを選択したのか。シュウからすれば呑気にも感じられる台詞を吐くと、丁度そこに姿を現したらしい整備士メカニックたちに同じ質問を投げかけた。
「私は先ず帰郷を。長く両親と会っていませんので」
「俺はバカンスですね。サーフィンが趣味なので、南の島で波に乗ろうかと」
 人間の欲には限りがない。世界平和というこれ以上はそう考えられない欲を叶えんと戦いに明け暮れている彼らは、それと比べれば卑小な欲を励みに絶望に彩られた日常を生き抜いている。それはシュウは愚かなことだと嗤ったりはしない。自らの欲するものを良く知っている人間は、その為に自分がどう生きればいいのかを良く知っている人間でもあるからだ。
 シュウはうっすらと目を開いた。
 そしてそう遠くない場所で、操縦者パイロット整備士メカニックたちに囲まれて立っているマサキの姿を見た。赤裸々に未来を語る彼らの言葉に口を差し挟むことなく聞き続けているマサキの態度からは、自身の未来に対する欲は感じられない。むしろ、そうした欲がないことに困っている風にすら、シュウの目には映ったものだ。
 果たしてマサキに世界平和以外の未来への欲はあるのだろうか? シュウはそれをいつかマサキに尋ねてみたいと思ったものの、次の瞬間にはサイバスターの整備が始まるのだろう。彼は整備士メカニックたちを伴って、格納庫バンカーの奥へと姿を消して行った。

140字SSお題ったー2
kyoさんは【欲張り】をお題にして、140字以内でSSを書いてください。