愛を囁く日に聖者に甘い贈り物を - 1/5

(序)

 今日も太陽は中天に座し、うららかな常春の日差しでもって、湾曲する大地に恵みを与えていた。
 十日ぶりにゼオルートの館に帰還したマサキは、風の魔装機神(サイバスター)から降り立って、眩く輝く太陽を背にそそり立つ館を見上げると、ほうっ……と、安堵の吐息を洩らした。任務を受けてラングラン東方に赴いた短いようで長かった十日間。その緊張の日々から、マサキはようやく解放されたのだ。
 成果を上げなくてはと焦りにも似た気持ちで調査を続けたものの、その結果は芳しいものではなかった。結果、調査半ばにしてセニアに帰還を命じられるに至ったのだが、軍部が用意した宿泊所の大きいばかりで(おもむ)きのない硬いベッドで眠る生活よりも、小さくとも寝具にこだわった自分のベッドで身体を休められる生活の方がいいに決まっている。
 それは、マサキとともに東方に赴いたテュッティも同じ気持ちであったようだ。水の魔装機神(ガッデス)から降り立った彼女は開口一番、「やっとこれで自分のベッドで、気兼ねなく休めるわね」と、心からの笑顔を浮かべながらマサキを振り返った。
「おかえりなさい。おにいちゃん、テュッテイおねえちゃん」
 扉を潜ると、魔装機の駆動音でその帰還に気付いたのだろう。待ち構えていたプレシアが玄関でマサキとテュッティを出迎えた。
「ただいま、プレシア。留守中に変わったことはなかったか?」
「特になかったよ。みんな様子を見に来てくれたし、大丈夫」
「それならよかったわ。これはお土産。一緒に食べましょう。お茶の準備をしておいてね」
 帰りがけに洋菓子店に寄って買ったケーキの包みをプレシアに渡すと、着替えを詰めたボストンバック片手にテュッティが二階の自室に上がってゆく。それを追うようにして、マサキもナップザックを背に自分の部屋へと向かった。