決して昼間の活動量が少ない訳ではなかった。むしろ仲間と楽しく過ごせたからこそ、逆に心が落ち着きを欠いてしまったのだと、寝付けない夜に不安を感じる度にマサキは自分自身にそう云い聞かせてきた。
――今日のヤンロンは滑稽だった……
思い出しただけで口元が緩む。堅物にて難物でもある彼が、ふとありきたりなことに対して無知を晒した際に、仲間に揶揄われては必死に抗弁する姿を見るのがマサキは好きだった。隙を晒さない仲間の人間臭い一面。ヤンロンも人間であったのだと、彼にやりこめられてばかりのマサキとしては感じ入らずにいられない。
――ああいう時のリューネは饒舌になるよな……
戦闘においては息の合った面を多々見せる激情家のふたりは、日常においても息の合った面を見せることがままあったけれども、時に盛大にお調子者になるリューネは、堅物故に的外れなことを口にするヤンロンを良く揶揄ってみせたものだ。
――ミオも尻馬に乗って囃し立てるもんだから、どんどん引っ込みがつかなくなっちまって……
抗弁すればしただけ泥沼に嵌まってゆくヤンロンが、苦し紛れに適当なことを云い出したものだから、成り行きを見守っていたテュッティも口を挟まずにいられなくなったようだ。惚けた調子で、けれども確実に追い打ちをかけるひと言。彼女は時に、冗談のつもりで相手にとっては痛烈に感じられる言葉を放つ。
それが決定打だった。テュッティの言葉にさしものヤンロンも自身の間違いを認めざるを得なくなったようだ。で、本当はどういう意味だったんだ。彼は派手に面白くなさそうな表情をしてみせると、太々しい態度でマサキたちに尋ねてきたものだった。
――楽しい一日だった……
気の合う仲間たちと平和な一日を長閑に過ごした。ラングランの果てなき平原でスポーツに興じ、その後に王都に繰り出して美味い食事と酒に舌鼓を打った。弾む会話は途切れることなく。いつまでもマサキの耳を愉しませてくれた。
マサキは目を開いた。
すうすうと静かな寝息を立てて、ベッドの隅で眠っている二匹の使い魔を起こさないように、のそり。と身体を起こしてベッドから出る。夜の闇の中。月明りを頼りに窓辺に向かい、そっと開いたカーテンの隙間から天上を窺った。
ぽっかりと浮かぶ、丸い月。
細くたなびく夜の雲が、雁の群れのように空にかかっている。その真上に昇った月。しんしんと鋭い光を放ちながら、夜空に高く座している。
常に場所をひとつとして動くことのないラ・ギアスの月。中天に在りて、あまねく光で世界を照らし続けるその姿は、地上の月と比べると力強く感じられる。いつか空から降って来そうなまでに巨大な月影。それを身動ぎせずに眺めていると、こつん――と、窓に何かが当たった音がした。
マサキが視界を動かすと、窓辺の隅に青い鳥。無作法を良しとしない主人の代わりに使いとなってマサキを呼びに来たのだろう。ガラス越しでも聞こえてくる彼のけたたましい言葉の連弾に、少し待ってろ。マサキは窓を叩いてそう告げると、部屋の中、クローゼットの前に立った。
寝付けぬ夜。
厄介な来訪者の登場が、けれども今日ばかりは有難く感じられる。
マサキは手早く服を着替え、部屋を出た。寝静まった館の中を息を潜めながら歩んでゆく。どういった用件かは知らないが、話したいことが山ほどある。マサキは玄関に辿り着くと、大きく息を吸った。
――ホントだったら寝てるところに来やがったんだ。
だったら少しぐらいの我儘を通すのも許されるだろう。今日の出来事を何から話し始めるか考えながら、マサキは彼に会うべく、ずしりと重い両開きの玄関扉を開いた――……。