横顔

 陶器と思しき滑らかな肌に深く色を湛えた紫の瞳が浮かんでいる。
 渺茫びょうぼうとした世界を遥か彼方から眺望しているかのような眼差し。手元の書を読むことに専心しているシュウの表情はひたすらに穏やかだ。恐らく彼は書をつまびらくことで、三千世界を一里と駆けているのだ――……その横顔に吸い込まれること暫く。自分がその顔に見惚れていることに気付いたマサキは、シュウの不躾な視線に晒されてつとと顔を逸らした。
「私の顔に、何か」
「何でもねえよ」
「その割には随分と長く、私の様子を窺っていたようですが」
 ぱたん、と閉じた書を膝の上に乗せたシュウは、どうやらマサキがその顔を眺めていた理由に思い至っているようだ。良くあることですがね。面白くなさそうに呟くと、テーブルの上のカップに残っていた紅茶をひと思いに飲み干して立ち上がった。
「何処に行くんだよ。読書の邪魔をしたのは悪かったって」
「あなたに限っては、そうしたことはないと思っていたかったのですが、そうまじまじと顔を凝視みつめられてしまってはね。読書に集中出来ないでしょう」
 どうやら自らの部屋に戻るつもりなようだ。
 決して意識しての行動ではなかったにせよ、不快に感じさせてしまったのは事実。悪かった。重ねてマサキが口にすると、「云ったでしょう。良くあることだとね」シュウは眉ひとつ動かすことなく・・・・・・・・・・・云ってのけると、いたたまれない気持ちでいるマサキに目を遣ることもせずに、そのままその場を立ち去ろうとする。
 けれども何かを思い付いたようだ。
 一歩、二歩……シュウはマサキの元へと歩んでくると、その長躯を屈めた。耳にかかる息。彼は声を潜めると密やかに、私の顔に見惚れていたのでしょう? 甘い響きでもってマサキに囁きかけてきた。
「……そんなことは、ねえよ」
「どうでしょうかね」ふふ、と嗤った彼は、「そのぐらいの見分けはつきますよ」
 そう言葉を残して、そっとマサキから顔を離すと、今度は振り返ることなく。悠々とした足取りで、マサキの視界から姿を消してゆく。

ワンドロ&ワンライお題ったー
kyoへの今日のワンドロ/ワンライお題は【横顔】です。