互いに木剣を手にしての一戦。ふわりと裾が開いたコートに、マサキは自らが手にしていた木剣を目の高さで構えた。上段からストレートに振り下ろされる彼の木剣。それがマサキの脳天に迫った次の瞬間、姿を消した。
まさか、と思った時には遅かった。綺麗に脛に入った一撃に、マサキは盛大に床に転がった。
「相変わらず思い込みだけで動こうとする人ですね、あなたは」
「ああ、くそ。これで何敗だ」
しこたま打ち付けた半身が痛かったが、起き上がれぬほどではない。身体を起こしたマサキは、目の前で冷ややかな表情を晒しているシュウを見上げた。
「10戦6勝4敗ですよ、マサキ。先の手を予測し過ぎるのは良くないとはいえ、あなたの野生の勘は侮れないですね。まだ勝ち越しているのですから、驚きます」
「てめぇ……人を挑発するのも大概に……」
「おやおや」あからさまな溜息。シュウの眼差しが突き刺さる。「最初に煽ってきたのはどなたでしたかね」
「悪かったな、俺だ」
どうせ博士様じゃ相手にもならないってな。そうシュウを挑発したのはマサキが先だった。
王宮騎士団の訓練に向かう最中、偶々ベンチで読書に耽っているシュウと隣り合わせた。何処に向かうのかを尋ねてきたシュウは、マサキの答えを聞いて興味をそそられたようだった。見学を申し出てくると、マサキの後を付いて歩いてきた。
――だったらお前も参加しろよ。
――御冗談を。私を誰だと思っているのです。
剣聖ランドール。その名が示すように、マサキと剣で互角に戦える者は最早騎士団にはいない。だからこそ、剣の稽古に不足のない相手を求めていたマサキは、自身も剣の使い手でありながら、武術で競うのには消極的なシュウに白羽の矢を立てた。
半ば、確信犯的に吐いた言葉であったのだ。
その挑発に乗ってきたシュウと、戦い続けること半日。流石に疲れも溜まっていた。だが、それ以上に好敵手を見付けた喜びがマサキの胸を高鳴らせていた。
「もう一戦だ。このままじゃランドールの名が廃る」
「望むところですよ。きっちりあなたに実力の程を思い知らせてあげましょう」
そしてまた木剣を掴んで立ち上がる。楽しくて仕方がねえ。11戦目の戦いに挑むマサキは、シュウを目の前にゆっくりと剣を構えていった。