「どうせだったら何か賭けるか。その方がやる気が出る」
退屈しのぎに始めたチェス。負けが込んできたマサキが云った。
「あなたが賭けるものと云ったら、食事かデザートと決まってますが、今度はどこに店を見付けてきたのです」
手番の回ってきたシュウが即座に駒を動かす。
正確無比なコンピューターのような手は、出来のいいゲームソフトのAIのようだ。クリティカルにマサキの予想を超えた手を打ち出してくるシュウに、待った。声を上げたマサキは何度目の長考に入った。
「城下の三番街に西方料理の店を見付けたんだよ。そこの魚料理が旨くてさ……」
宙を睨んで次の手を考えること暫く。ほぼ詰みじゃねえか。そんなことを呟きながらも諦めきれず。駒を進めたマサキに、それだと5手詰みですね。シュウが笑う。
「あーもう。どうやったら勝てるかね、お前とのチェス」
「あなたに簡単に勝たれるようでは私の立場がありませんね」
そして駒を並べ直し始めたマサキに、彼は席を立って云った。
「そろそろ外が恋しくなりましたよ。食事に行きましょう、マサキ。勿論、城下のその店にね」