ドンッ、と機体に衝撃が走った。
あの野郎。マサキは地平の彼方に小さく映る青き機影を睨み付けた。サイバスターの有効射程範囲外から長距離射程の高圧縮エネルギー弾を放ってきたグランゾン。不規則な軌跡を描いて迫りきた複数の高圧縮エネルギー弾を、マサキは全ては避けきれなかった。
幸い、装甲の厚い胴体に着弾したお陰でダメージは軽く済んでいる。ダメージ後のショックから回復したサイバスターの姿勢を戻したマサキは、次は自分の番だと気勢を上げた。
「行くぞ! シロ、クロ!」
「またニャの? どうせ直ぐに終わるんでしょ?」
「無駄な働きはしたくニャいんだニャ」
いけ好かない表情が鼻に付く男は、度々こうしてマサキの不意を突くようにして攻撃を仕掛けてきた。長距離攻撃から接近戦。切り結んでは離れる尾繰り返しながら、ひと通り攻撃の手番を済ませると、何事もなかったかのように戦闘を終わりにしてみせる。
だからだろう。警戒態勢に入ったのも一瞬。相手がグランゾンと分かった時点で、どうせ直ぐに終わる戦いと二匹の使い魔は気が抜けたもの。さりとて使い魔のやる気がないから――と、尻尾を巻いて逃げ出したり、諸手を挙げて投降してみせるのも癪に障る。マサキは二匹の尻を叩くように、檄を飛ばした。
「やられっ放しで黙ってろってか? うだうだぬかすんじゃねえよ! 一発はお見舞いしねえと気が済まねえ!」
何を考えているのかわからない男の、最高潮に意味の通らない行動。彼の気紛れに振り回されているだけなのは承知している。それでも抵抗を繰り返してしまうのは、あの男の思い通りにはなりたくないというマサキなりの意地の表れだった。
「サイバスターの機動力を生かして突っ込むぞ!」
マサキはリミット間近まで動力炉の回転数を上げた。唸るエンジンのモーター音。大地を揺るがす轟音とともに、光速でグランゾンの許へと疾り込んでゆく。
真っ直ぐに向かってくるマサキとサイバスターを、男は迎え撃つつもりであるようだ。前進を始めたグランゾンに、煙幕代わりとマサキはファミリアを飛ばした。どちらともとはいかなかったが、一体がヒットする。噴き上がった爆炎に、一瞬グランゾンの動きが止まる。マサキは即座に剣を振り上げると、グランゾンへと斬り込んでいった――……。
※ ※ ※
「何なんだよ、てめえは。毎度々々俺の姿を見るなり攻撃してきやがって……」
思ったより長引いた戦闘に、マサキは戦いの舞台となった平原に降り立つと、そのまま草むらに身体を投げ出した。次いで既にグランゾンから降りていたシュウが、その傍らに腰を落とす。涼やかな面差し。先程までの猛攻を微塵も感じさせない柔らかな眼差しがマサキを見下ろしている。
「戦いの勘が鈍らないようにという親心ですよ」
「親心が聞いて呆れるぜ。どんな千尋の谷だよ。命懸けにも限度があるだろ。てめえとだけは親子になりたくはねえ」
「奇遇ですね。私もですよ、マサキ。あなたのような柄の悪い息子だけは欲しくありませんね」
「ホント、口が達者だよな。お前……」
「あなたこそ減らず口に磨きがかかって」
そしてふと訪れた沈黙。さわさわと撫で付けるように吹く風が心地いい。
シュウの頭の向こう側に広がるラ・ギアスの蒼い空。今日もいい天気だ。そう呟いて、白くたなびく雲の流れゆく先をマサキが眺めていると、シュウの滑らかな手が髪に触れた。
額にかかった前髪が取り払われる。ゆっくりと滑り落ちてきた手がマサキの頬に触れると同時に、シュウが身を屈めた。塞がれた口唇にマサキは静かに目を閉じる。そうして、緩く口内を探ってくる舌を気が済むまで味わった。
「……日本じゃ親しき仲にも礼儀ありって云うんだぜ」
「キスをする時に断りを入れて欲しいとでも?」
「そうじゃねえよ。出会い頭に攻撃するのを止めろって云ってるんだよ」
「それは中々に難しい」
暫くマサキの髪を撫でていたシュウの手が離れる。だからといってマサキの側を離れるつもりはないようだ。そのまま膝の上に本を広げたシュウに、どういう気持ちの表現なんだよ。マサキが攻撃の理由を尋ねれば、
「勿論、愛情表現のつもりですよ」
マサキからすれば不可解にも限度がある思考回路を持つ男の、不条理な愛情表現。一生、理解出来ねえよ。マサキは呟くとそよぐ風に身を任せるようにして目を閉じた。
漢字で創作ったー
@kyoへの今日の漢字テーマ【親密[しんみつ]/極めて仲の良いこと】