迷い子

 格納庫にて自身の機体の整備に当たっていたシュウが、その場を離れようと思ったのは、兜甲児を筆頭とする一団がマサキ=アンドーを探してそこに降りて来たからだった。
「何だよ、ここにもいねえのか」
「自分の部屋で休んでるんじゃないのかしら?」
「あいつがそんなタマかよ。どうせその辺りをうろいつてるに決まってらァ」
 既に方々を探した後らしい。格納庫の隅まで覗いて歩く彼らに、嫌な予感しかしない――と、シュウは整備を中断して、艦内を下層から順に歩いて回ることとした。
 彼の壊滅的な方向感覚がどうやって培われたのか。残念ながら正常な方向感覚に恵まれているシュウには想像も付かなかったが、どうも彼は空間認識能力はおろか、地図を読む能力までも欠如しているようだった。案内図を目の前にしても直後にはあらぬ方向へと足を踏み出してゆく。ならばせめて目印だけでもきちんと見付け出せればいいものを、それさえも彼には難しいことらしい。例えばそこの角で乗組員クルーたちが世間話に興じていたといったことは良く覚えているが、地下二階のフロアの通路に付いている特徴的な傷といったものにはとんと興味が向かない。似たような構造からなる建造物の中では、そうした些細な違いに気付けるか否かが移動能力の差に繋がるというのに、彼はどれだけシュウがそれを指摘してみせようともそうした能力を養うつもりはないらしい。
 否、努力はしているようだ。
 ただその努力があらぬ方向へと実を結んでしまうのが、マサキ=アンドーという人間である。
 目印を記憶していられるようになっても、そもそもそこに辿り着くのに多大な労力が必要となる彼は、少しも油断をすれば即座に自分の現在位置を見失ってしまう。そしてまた元の木阿弥。闇雲に彷徨って、自分の知っている場所に出ようとした結果、却って見知らぬ場所に迷い込んでゆく。
 そんな彼がこの巨大戦艦の中でどうして無事でいられたものか。
 今頃はまた何処かで途方に暮れていることだろう――シュウはマサキが迷いそうなスポットを次々と探し歩いた。彼の場合、階を間違えていたぐらいは良くあることだ。似たような構造になっているエリアに入り込むと、自分が居る階層が何階になるのかという根本的な部分もどうでも良くなってしまうのだろう。最下層の格納庫に向かうのに、二階上のフロアで迷っていたのを見付け出した時には、さしものシュウも彼が巫山戯ているのだと思った。
「やったのね! 人に会えたのよ!」
 そうして方々を探し歩くこと十分余り。既に相当な時間を迷っていたようだ。人気のないエリアでようやくマサキの姿を見付け出したシュウに、彼の二匹の使い魔が喜びも露わに駆け寄って来る。
「この際、お前でもいいんだニャ! 格納庫に連れて行けニャんだニャ!」
 迷う度に救いの神と姿を現わすシュウの存在に、彼らが不信を感じることはない。単純にも目先の幸運と飛び付いてくる二匹の使い魔に対して、マサキ本人は自分が迷う度に出会すこととなる男に気まずさを感じているのだろう。バツが悪そうな表情で振り返ったマサキに、行きがかった風を装って、シュウは甲児たちが探していることを告げた。
「格納庫まででしたら、私もグランゾンの整備をする都合がありますので付き合いますよ」
 整備を途中にしていることは口にせずそう云えば、それだったら――とマサキが頷く。そうして彼はようやく目的地に辿り着けると喜ぶ二匹の使い魔を窘めると、シュウに肩を並べて歩き始めた。