「何だ、それは」
街中ではぐれてしまった二匹の使い魔と奇跡的に再会を果たしたマサキは、その後ろで小さい毛むくじゃらの物体がふにゃふにゃと鳴き声を上げているのを見て、先ずどういった事情があるのかを尋ねることにした。
「やだ! まだ付いて来てたの!?」
「ニャんか知らニャいけど、ずうっとニャんだニャ!」
よくよく見て見れば毛むくじゃらの物体に見えたそれは、白地に黒の斑模様の子猫であるようだ。
まるで二匹の使い魔を掛け合わせたような外見の子猫は、足を止めた二匹の間にすいと割り込んでくると、ふにゃふにゃと鳴き声を上げながら彼らに身体を擦り付け始めた。どう贔屓目に見ても親子にしか見えない三匹。お前ら、いつの間に……マサキは溜息を吐きながら言葉を継いだ。
「俺に内緒にするなんて、つれないじゃねえか。別にいいんだぜ、少しぐらい家族が増えても」
「ニャに云ってるのよ、マサキ! あたしたちは使い魔ニャのよ!」
「そうだそうだ! ニャにを想像したんだニャ!」
「何って……」マサキは鼻の頭を掻いた。「そういうことなんだろ、つまり……」
「そんなことは絶っっっっっ対にニャいのニャ!」
「何だよ。じゃあ何でこいつはお前らにこんなに懐いてるんだよ」
マサキは変わらず二匹の使い魔に擦り寄っている子猫を抓み上げた。
ふにゃあ。子猫が鳴き声を上げる。
マサキに触られても抵抗する様子がない辺り、警戒心がまるでない。もしかすると飼い猫かも知れない。マサキはそっと子猫の腹を撫でた。膨れていないところを見ると、腹を空かせて二匹に付いて来たのだろう。仕方ねえなあ。マサキはジャケットの襟元に子猫を押し込んだ。
「どうするの、マサキ?」
「どうするも何も、こいつの家族を探してやらないといけないだろ。これだけ警戒心が薄いってなると、人間に飼われてるペットかも知れねえ。向こうも今頃探してるんじゃないか?」
ふにゃあ、にゃあ。忙しなく鳴き声を上げる子猫を撫でてやりながらマサキが云えば、流石は主人に似て口の減らない使い魔だけはある。二匹の使い魔は目を瞠りながら、声を揃えて先ずはひとこと。
「マサキ、思ってたより頭がいいんだニャ!」
「お前、俺のことをどういう主人だと思ってたんだ?」
「直感で生きてるだけかと思ってたのね!」
「推理が出来るとは思ってニャかったんだニャ!」
足にじゃれついてきながら失礼な言葉を次々に浴びせかけてくる二匹の使い魔を爪先で蹴散らして、その前にメシだな。マサキは懐でにゃあにゃあと鳴き声を放ち続けている子猫を撫でると、ペットフードを求めて歩き始めた。
※ ※ ※
手近な店でペットフードを買い与えると、腹がくちて満足したようだ。鳴き声のおさまった子猫を再びジャケットに収めたマサキは、ペットショップでついでに購入した猫用の玩具を片手に近くの公園に向かった。
「マサキ、その子の家族探す気あるの?」
「ニャんだかすっかり飼う気満々みたいニャんだニャ」
食事の後は運動だ――そんなことを云いながら先を往く主人が心配になったようだ。不安げな声を上げる二匹の使い魔に、そりゃいざとなれば飼うだろ。マサキは当然と云い放った。
「これだけ小さいとまだひとりじゃ生きていけねえ。子猫には外敵も多いからな」
「それはそうニャんだけど、公園で遊んでどうやって家族を見付けるの?」
「人が集まる場所だったら知ってる奴がいるかも知れないだろ」
云いながら公園に足を踏み入れると、昼下がりだからか。それなりに人が集まっているようだ。
今日もいい陽気だからだろう。芝生の上に広がるピクニックシート。カップルや家族連れが日向ぼっこと洒落込んでいるようだ。申し分のない広さ。ここなら子猫を遊ばせるのに丁度良さそうだ。マサキは早速子猫を芝生の上に下ろした。
瞬間、子猫はそれまでの懐き具合は何処へやら。脱兎の如く、人々の間を縫うようにして走り去ってしまう。
「あ、おい――何処に」
もしかすると家族を見付けたのかも知れなかったが、警戒心の極端に薄い子猫のすることだ。ただ興味があるものに飛びついただけかも知れない。マサキは万が一もあると慌てて子猫を追いかけた。
先程までの頼りなさはどこにやら。猛然と芝の上を駆け抜けた子猫は、幸いにして、そう遠くないところでスピードを緩めたようだ。そこには読書に励んでいる見知った男の顔。おや、マサキ。彼がそう口にする頃には、子猫はその膝の上に乗り上がって丸くなっていた。
「お前の猫とか云わねえよな」
「まさか。この公園を縄張りにしている猫の子どもですよ」
子猫がいようとも習慣を慎むつもりはないようだ。本を閉じることなくマサキの問いに答えたシュウに、本当かよ。マサキは疑わし気な視線を向けずにいられなかった。
「その割には随分懐いてるじゃねえか」
「出産直後に母猫が痩せてしまったので、少しばかり餌を与えて様子を見ていたのですよ。それで顔を覚えてしまったようですね」
「恩義を感じてるってか」
「餌をくれる人だと思っているだけでしょう」
「案外、覚えてるもんだぜ。猫ってヤツは」マサキは手にしていた猫用の玩具をシュウに投げて渡した。「ちゃんと遊んでやれよ」
腹がいっぱいになったことで眠気に襲われているのだろう。シュウの膝の上で気持ちよさそうに目を閉じている子猫に、マサキはこれが最後とそうっと手を伸ばした。そして、一度だけ、毛玉のようなその身体を撫でてやると、「シロ、クロ。行くぞ」名残惜しさを感じながらも、振り返らずにその場を後にした。
ワンドロ&ワンライお題ったー
@kyoへの今日のワンドロ/ワンライお題は【出会い】です。