リューネとウエンディのコンビに引っ立てられるようにして訪れた王都で、やれショッピングだデザートだと彼女らの欲望に突き合わされ続けたマサキは、自らの要望を口にし難いデートにそろそろ飽きを感じ始めていた。
他の場所であれば自然の景観を楽しむということをしてみせるふたりであったが、不幸にもここは栄えある王都だった。最新のファッションやグルメがひしめき合う街で、物欲に歯止めを利かせろというのにも無理がある。限りを知らない欲望。両手に山と彼女らが買い込んだ荷物を持たされたマサキは、今また新たな店を発見したらしいふたりに、どうにかならないものか――と、助けを求めるように辺りを見渡した。
「そんニャ都合のいい展開はニャいのよ」
「諦めて今日はふたりに付き合うんだニャ」
シロとクロの言葉に、マサキはわかってるよと言葉を吐いて、両手に荷物を持ち直した。少女趣味に溢れた雑貨を飾られているショーウィンドウ。次の彼女らのショッピングの標的はどうやらこの店であるらしい。
マサキはそのガーリーな外観に二の足を踏んだ。パステルピンクに塗られた壁に、ストロベリーピンクのドア。白さが際立つ布製の庇にはレース模様があしらわれ、まるで人形の家とでも呼ぶべき様相を呈している。間違ってもマサキのような無骨なファッションに身を包んだ男性が入っていい店ではない。
「おい、お前ら本当にここに入るのかよ」
「大丈夫だって! ちょっとだけだから!」
「何だったらマサキは外で待っていてもいいのよ?」
流石にその店に足を踏み入れるほどの勇気はマサキにはなかった。リューネとウエンディもマサキの答えを予想していたのだろう。なら、待つぜ。と、答えたマサキにそれ以上構うことなく、店の中へと足を踏み入れて行く。
朝からマサキを叩き起こしてデートデートと煩かった割にはあっさりとした態度もあったものだ。デートって何だっけな。マサキはふたりの女性に対する自身の立場に疑問を感じながら、パステルピンクの壁に凭れた。
「おや、マサキ。珍しい場所で顔を合わせますね」
足元に荷物を置いて待つこと暫く。不意に浴びせかけられた声に、慌てて顔を上げれば、どういった風の吹き回しか。ひとりで城下を闊歩していたらしいシュウと視線が合った。
「いいところで顔を合わせた。おい、シュウ。お前、俺に何か用はないか」
普段であれば厄介者の登場と顔のひとつでも顰めてみせたところだが、今は別だ。マサキは目の前のシュウに救いを求めて言葉を吐いた。ええ……? 主人の考えを悟ったらしい二匹の使い魔が、呆れ果てた声を上げるもマサキに耳を傾けている余裕はない。
憎まれ役にこれ以上となく相応しい人物の登場。これが天の助けでなければ何であろうか! リューネやウエンディもこの組み合わせにまで深く口を挟んでくるような真似はしまい。
「何でもいいぞ。遺跡探索でも、露払いでも、お使いでも」
とはいえ、焦るマサキとは裏腹に、姿を現したばかりのシュウには事情が呑み込めていないようだ。
「何です、突然に。私とていつもいつもあなたに用事を頼んでいる訳ではないものを」
「だったらこの荷物を良く見ろよ。それで理由はわかるだろ」
その言葉を受けたシュウの視線がマサキの足元の荷物に注がれる。彼は紙袋の中身を見るまでもなく、そこに入っている店名ロゴだけで事情を察したようだ。眉根を盛大に寄せると、あなたも大概お人好しですね。と、二匹の使い魔同様に呆れ果てた声を出す。
「しかし私からの用件とあっては却って反発を招くだけでは?」
「あってもなくてもこの際関係ないんだよ。いいから今から俺に付き合え」
「デートの最中なのでしょうに」
「これだけの荷物を持たされてデートもへったくれもあるか」マサキはストロベリーピンクのドアから店内を覗き込んだ。「おい、リューネ、それにウエンディ。俺は用事が出来たから行くぞ。荷物は後でお前らの家に届けるからな」
そうして荷物の半分をシュウに任せて歩き始める。
少しもしない内に、あたしのマサキに何の用よ! と、店を飛び出して来たらしいリューネの声が通りに響き渡るが、そこは流石の鉄皮面。シュウはリューネを振り返ると、それについてはまた後日と、生真面目にも表情を整えながら口にしてみせた。そうして少し先で足を止めていたマサキに並び立つと、
「ねえ、マサキ」と、何処か甘えた声で言葉を吐いた。
「あなたからの誘いに応じて差し上げたのですから、それ相応のご褒美をくださるのでしょうね」
「う……それは、その……」
マサキは言葉を詰まらせた。これだけ明け透けに言葉を吐かれているのだ。どれだけ鈍感あっても、シュウの求めんとしていることぐらいは理解が及ぶ。
もしかするとそのマサキの窮した様子で満足したのやも知れなかった。そう時間も置かずに、冗談ですよ。と、シュウが言葉を継ぐ。マサキはほっと胸を撫で下ろした。借りを倍以上にして返させられるのでは、利用した甲斐がない。
「何処に行きましょうか。これだけの好天に王都で過ごすのも勿体ない気がしますが」
「だったら平原にでも出るか」
いいですね、とシュウが笑う。その心安らいだ笑顔に、この方が楽だ。マサキは胸の内で呟くと、王都を出るべくシュウと肩を並べて通りを歩き始めた。
ワンドロ&ワンライお題ったー
@kyoへの今日のワンドロ/ワンライお題は【デート】です。