数メートル先も見えない吹雪だった。
雪かきに出た筈のマサキは、いつしか姿を消していたゼオルートの館に途方に暮れていた。数歩も動いた覚えがないのに、気付けば雪以外には何も見えない世界にいる。方向音痴に殺されるなんて洒落にならねえ。マサキは目印になりそうなものを探して、辺りを見回した。
真白に染まった世界。その只中にたったひとりで立ち尽くしている。恐ろしい現実に直面したマサキは、これまで数多の死地を潜り抜けてきたにも関わらず、焦りを感じずにいられなくなった。おーい。助けを求めて声を放つも、そもそも人の気配がない。マサキの声は虚しく辺りに響き渡るばかりだった。
せめて玄関前に積もった雪だけでも片付けようと思って外に出てしまったのが間違いの元だった。
温暖な気候のラングランに降る雪は、普段であれば積もることなく雨に変わったものだった。それがこの有様だ。天気予報程度であれば確実に当ててみせる未来視たちの警告。きっと人々は彼らの預言に従って大人しく家に篭っているのだろう。マサキはシャベルを片手に吹雪の中、これから自分がどうすべきかを考えた。降りかかってくる雪は、そろそろ髪を凍らせつつあった。
どの方角に向かえばゼオルートの館に戻れたものか。いい加減冷たくなってきた手袋に、マサキははあと息を吹きかけた。人も通りかからない。景色も見えない。この状況からゼオルートの家に帰り付くにはどうすればいいのか。まるで妙案が思い浮かばない。
「これは死んだかね」
そう言葉を吐いたつもりだったが、寒さで口が固まってしまったようだ。ヒキガエルを押し潰したような声しか聞こえてこない自身の口の有様に、これは死んだな。マサキは再度心の中で呟いた。
しかし、だからといってこの場に留まっていては本当に死を待つばかりになってしまう。仕方なしにマサキは歩き出した。一歩、二歩……三歩と歩いたところで、待ちなさい。と、鋭い声が響いてきた。
「嫌な予感がしたのですよ」
振り返ると吹雪の中、今日ばかりは厚いコートを羽織ったシュウの姿がある。
何で、お前が。マサキはシュウに理由を尋ねようとしたが、やはり上手く声が出てこない。いいから来なさい。シュウの手がマサキの手を掴む。「先ずは身体を温めてからです」そう云って歩き始めたシュウの後を付いて行くと、少しして、雪にけぶっているグランゾンの姿が目に入った。
※ ※ ※
いつかの雪の日に、マサキが薄く積もった雪で遊んでいたことを覚えていたようだ。だからこそシュウは、もしかしたらこの吹雪の中でもマサキが雪遊びに興じているのではないか、と思ったのだそうだ。
「ラングランの人間は雪の日には基本的に外には出ないのですよ。異常気象ですからね」
「あー。だからプレシアが雪かきを止めろって煩かったのか」
暖気の入ったグランゾンのコントロールルームで身体を温めること暫く。ようやく話せる程度に体温が回復したマサキは、正面モニターの向こう側。相変わらずな真白の世界に、けど――と、言葉を継がずにいられなかった。
「お前、よくここまで来れたな。全然前が見えなかっただろ」
「あなたと比べれば方向感覚があるつもりですよ」
「そういう問題か? この雪だぞ」
「……あなたはレーダーが使い物にならなくなる状況に慣れ過ぎですね、マサキ。普通の機体はサイバスターと違って、きちんとレーダーが機能するのですよ。無論、ナビゲート機能も」
溜息とともにそう吐き出したシュウにマサキははっとなるも、好きでレーダーだのの機能を使い物にならなくしている訳ではない。
きっとそういった感情が表情に出ていたのだろう。マサキの顔を見て呆れた表情になったシュウは、「何にせよ無事に済んで何よりですよ」次いで、嫌味としか聞こえない口振りでそう言葉を吐いてきた。