食え。と、目の前に置かれた器に盛られたそれがどういった料理であるのか、シュウは暫く考えなければならなかった。
炊いた米、キャベツの千切り、そしてタレで焼いた鶏肉。重なった食材の中央に半熟卵が乗っている。
渡されたフォークを握り締めること暫く。日本にいた頃の知識を総動員したシュウは、恐らく――と、公理を答えるようにはいかないマサキの料理に、不確かさを感じながら答えを口にした。
「焼き鳥丼、ですか」
当たり。と、笑ったマサキが、自分の分の丼を手に正面の席に着く。
「俺が他人に奉仕するなんて滅多にないんだから有難く思えよ」
「それは私の台詞ですが」
「お前は何だかんだで、俺に甘いだろ」
「あなたが自分の素っ気なさに自覚があったことに驚きですよ」
甘えてくることはあっても、極々稀。滅多な事では自らシュウを求めてくることのないマサキにシュウがそう云えば、はっと目を瞠ったマサキが肩を竦めてみせる。そのまま、チョップスティック――即ち箸を手に、早速と焼き鳥丼をかき込み始めたマサキに、深く追求を続けていい話でもない。
シュウは自らが手にしているフォークを眺めた。
確かにシュウはマサキのように箸を使う文化には生きてはこなかった。だが、決して使ったことがない訳ではない道具を、育った文化が異なるといった理由だけで使えないと思い込まれることには抵抗がある。
マサキ。シュウは箸を動かす手を休めることなく食事をしているマサキの名を呼んだ。何だよ。と、瞬間、手の動きを止めたマサキがシュウに視線を向けてくる。
「私にこれで食べろと」
「お前が箸を満足に使えるとは思えねえけどな」
「日本にはいたことがありますが」
「付け焼刃で使えるもんじゃねえぞ」
どうも純粋な日本人であるところのマサキは、自国の複雑な文化に一種独特な誇りを持っているようだ。お前じゃ無理だと思うけどな。そう云いながらもう一膳、箸を持ち出してきた彼にシュウは薄く笑った。
時空を隔てた世界にある自らのもうひとつのルーツに、シュウは決して関心がない訳ではなかった。今でも鮮やかに思い浮かべられる日本の風景。その文化にシュウがどれだけ辿り着きたいと、幼い頃から願っていたことか。
「……何だよ」
シュウが箸を手にして暫く。箸を置いてその様子を見守っていたマサキが、面白くなさそうに呟く。
純粋な日本人であることに対する誇りを傷付けられたのだろうか。シュウは食事の手を止めてマサキに向き直った。どうかしましたか、マサキ。微かに膨れた頬にそう尋ねてみれば、
「俺の出番がねえじゃねえか」
頬杖を付きながら、ぼそっと吐き出す。
「食べさせでもしてくれるつもりだったの?」
揶揄い半分でそう言葉を継げば、どうやら図星だったようだ。自らの感情を誤魔化しているつもりなのだろう。さっさと食え。ぶっきらぼうに云い放ったマサキが、器で顔を隠すようにして、食事の続きを始めた。