「な、なななな何しにきたのよッ! この極悪人ッ!」
案の定と云うべきか。家を訪ねるなり玄関に立ちはだかった彼の義妹に、予想をしていたとはいえ、シュウは悩ましさに眉根を寄せずにいられなかった。
「マサキに呼ばれたから来たのですよ」
童顔めいた顔立ち。大きな瞳がシュウを睨んでいる。
日増しにマサキに似てきているように感じられるプレシアの顔。血の繋がりなど一切ないのにも関わらず、ぱっと見ただけでマサキを想起せずにはいられない。
「そんなことある筈ないでしょ! お兄ちゃん、今熱が38度もあって」
「知っていますよ。先程、本人から聞きましたから」
彼女に罪悪感を持っているシュウとしては、出来るだけその意に沿って行動してやりたくはあった。とはいえ、シュウを呼び出したのはマサキである。熱を出したことで気が弱ったのだろう。今にも死にそうな声で、直ぐに来いときたものだ。
これまでプレシアを慮ってか、自宅にシュウを立ち入らせてこなかったマサキの攪乱。
このチャンスを逃せば二度はない。マサキの自室に興味があったシュウは、だからこそ引く気などさらさらなく。あまりにも話が通じないようであれば、強行突破をすることにしよう。そう考えながら、プレシアを見下ろす。
「お兄ちゃんがあなたに何の用があって、連絡なんか……」
「私にもわかりませんよ。ただ――」
そこでシュウは手にしていた袋をプレシアに掲げてみせた。
「買ってくるように云われたのですよ」
白桃とみかんの缶詰に、オレンジとグレープのアイスバー。パックの苺にサイダーとコーラ。痰が絡んでいがつく喉をすっきりさせたくて堪らないらしい。マサキに買ってくるように頼まれた品に目を通したプレシアが、そのあまりにも栄養価を考えない組み合わせに、シュウの言葉が真実である確信を得たようだ。露骨に顔を歪めてみせると、少しだけだからね。と、道を譲ってくる。
お人好しなのは、兄譲り。シュウは微かに口元を緩ませて、わかっていますよ――と、今頃熱にうなされて心細い思いをしているだろうマサキの許へと一直線に向かっていった。