「こういうのって旅行土産でなかったか」
うーん。と唸りながら、シュウの隣でデザイン図を考えているマサキが口にした。
「自分で絵柄をデザインするシャツですか? 地上にいた時に見掛けた覚えはありませんが」
「外人観光客向けにさ、好きな漢字をデザインしたシャツをって土産があるんだよ」
成程。と、呟いたシュウは、自らが向かっているデザイン用の用紙を見詰めた。
街をそぞろ歩いていて見付けた店は、自分で書いたデザインをシャツに転写してくれるらしい。それを「面白いからやろうぜ」云ったのはマサキだった。しかもよせばいいのに、お互いがお互いのシャツの図柄をデザインするという提案付きだ。
碌なことにならない気しかしない。
案の定と云うべきか、早くも行き詰ったようだ。書いては消しを繰り返していたマサキのデザイン用紙には何も書かれていない状態が続いている。
「とはいえ、外国人は漢字の意味もわからずに形で選ぶことも多いでしょうに」
「そりゃ日本人だって一緒だろ。意味もわからず英語のデザインされたファッションを有難がってさ」
云うなり、何かを思い付いたようだ。デザイン用紙に何かを書き付け始めたマサキに、確かに――頷いたシュウは、ラングラン語でシャツのデザインをすることに決めた。絵心はあまりないが、これなら多少は形が付く。問題はどういった単語や文章を載せるかということだが、何せマサキのシャツである。そこに印字したい言葉となると限られたもの。
「……おい」
早速と書き始めたシュウの手元を覗き込んだマサキが、不満げな声を洩らす。お前さー……と、続けた彼は呆れ果てている様子だ。それもその筈。ラ・ギアスの翻訳機能は優秀だ。ラングラン語ぐらいであれば難なく翻訳してみせる。
「読めてしまいましたか」
「俺、やだぞ。それ着るの」
愛しています。シンプルに愛の言葉を刻んだシュウに、正視が出来ないようだ。デザイン用紙から視線を逸らしつつマサキが頬を膨らませる。
「シンプルが一番でしょう」
そこでシュウはマサキのデザイン用紙に目を遣った。何か思い付いたらしい彼は果たして何を書いたのだろう? 次いでその全貌を目にしたシュウは、その瞬間、彼との間にある暗くて深い溝を自覚させられずにいられなかった。
――紫。
間違ってはいない。いないが――。
「何だよ。何が不満だよ。格好いいだろ、紫。漢字の形もいいし、お前らしいじゃねえか」
お世辞にも上手いとは云えないかな釘文字。どうやらマサキとしては、本気でこれ以上のデザインはないと思っているようだ。そのまま奥の受付カウンターにデザイン用紙を持ち込んでいるマサキに、シュウは深い溜息を洩らさずにいられなかった。