これは何です。と、シュウは目の前に差し出された物体に、それを持ち込んできた当人に訊ねずにいられなかった。
長方形の何かを、恐らくはラッピングしたのだと思われる物体X。折り紙を転用したと思しき包み紙は何度も包むのに失敗したようで、所々皺が寄ってしまっている。それだけでも不穏度は相当なものだが、何故かリボンの代わりに毛糸が巻き付けられているときたものだ。
プレゼントというよりは呪いの品である。
シュウは穏やかならざる雰囲気の物体Xを目の前に考え込んだ。これラッピングなどと呼称してしまっては、それを生業としている人々に申し訳ない。一体、何をどうすればこんな呪術用の供物にも似た物体が出来上がってしまったものか。とかく禍々しい物体Xに、けれどもマサキ自身は不審を感じてはいないようだ。
「何っ、て……バレンタインのチョコレートだろ」
未知なる物体を持ち込んだ張本人であるマサキが云うには、包みの中身はチョコレートであるしかった。
「……チョコレートなのですか。本当に?」
「何で疑うんだよ。そりゃ、ちょっと包むのに失敗したけどよ……」
「自覚があって何よりですよ」シュウは手にした物体Xをしげしげと眺めた。「ちょっと、で、済ませていい状態ではないようにも思えますが」
そして包みを解いた。
緩んだ毛糸をほどき、折り紙を開けると、中身のチョコレートまでもを自分の力でどうにかしようとは、流石のマサキも思わなかったようだ。城下では有名な菓子店のギフトボックスが姿を現す。
「このまま渡してくれればいいものを」
ダークブラウンをゴールドのラインで縁取った重厚なパッケージ。このままでもギフトに充分事足りるものを、彼は何を血迷ってラッピングしようなどと思ってしまったのか。シュウとしては首を傾げるより他なかったが、どうせマサキのことだ。プレゼントだから包んだ、ぐらいの理由であるのだろう。
「バレンタインのチョコだぞ。包んだ方がいいに決まってるだろ」
「妙な呪いでもかけられたのかと思いましたよ」
案の定な返答に、溜息とともにラッピングの残骸を見遣る。どう見ても不穏。シュウは自身の視力と認知能力と精神の異常を疑ったが、目を擦ってみても目の前の物体が変化することがない辺り、残念ながらシュウ自身の能力に起因する現象ではないのだろう。
折り紙と毛糸。
一体、何がマサキをそんなドラスティックな衝動に駆り立ててしまったのか。禍々しい残骸を目の前にシュウは再び考え込んだ。だのにマサキ相手となると役立たずとなる知能。彼はいつだって、容易くシュウの予測の範囲を超えてみせる。それが妙に遣る瀬無く感じられて、溜息とともに顔を上げる。
少なくともこの謎を解かぬことは、心穏やかにチョコレートを食べられそうにない。シュウは折り紙と毛糸を取り上げた。
「訊ねていいものか悩みますが、これは折り紙と毛糸ですよね、マサキ」
「悪かったな」
「開き直っていいことではないような気がしますが」
「家にあるものでラッピングに使えそうなものがそれしかなかったんだよ」
「ラッピング用の包み紙やリボンを買えば良かったでしょうに」
「恥ずかしいじゃねえかよ。俺が包むのかって思われるの」
いまいち要領を得ない返答だが、マサキが自身の確かな意志で折り紙と毛糸を選んだことだけは、シュウにも理解出来た。
「なら、いっそ包まないという選択肢は」
「バレンタインだぞ」
諦めにも似た気持ちで折り紙と毛糸をテーブルの上に置く。
そもそも不器用であるのだから、自分でラッピングしようなどと思わなければいいものを――とは、シュウも思うも、妙なところで律義さを発揮するこの青年のことだ。中身が既製品である以上はと思ってしまったのだろう。
大雑把で大胆な性格をしている割にはお人好し。そういった性質の持ち主であるマサキ相手では良くある話でもある。仕様のない。シュウはチョコレートを片手に、マサキに向けて逆側の手を差し出した。
バレンタインのプレゼントを手に訪れただけあって、多少は期待をしていたのだろう。素直に手を取ったマサキの身体を引き寄せ、力一杯抱き留める。
あのマサキが、今日の為にチョコレートを用意し、あまつさえそれを自身の手でラッピングしようとしたのだ。その事実に満足出来ぬほど、シュウは自らの人生に奢っていないつもりだ。
「最高のチョコレートですよ、マサキ」
すっぽりと腕の中に収まったマサキに囁きかけると、どこか誇らしげな表情が目に入る。きっと、相当に苦労して包んだチョコレートだったのだろう。ならばもう何も云うまい。シュウはマサキの頬にそっと口唇を寄せた。