プレゼント? と、怪訝そうにマサキが手にしている包みを窺っているシュウに、マサキは藪睨みがちに視線を送った。我ながら似合わないことをしているという自覚があるからこそ、素直にそうだと頷けない。何だよ。ぶっきらっぽうに言葉を吐けば、どういった風の吹き回しです。心底、不思議そうにシュウは尋ねてきた。
「俺がお前にプレゼントをしちゃいけないって?」
「そういうことを云っている訳ではありませんよ。ただ、何の前触れもなくプレゼントを渡されてもね。今日が何かの記念日とでもいうのであれば話はわかりますが」
緊張で強張った喉。上手く言葉が紡げなくなったマサキは、バレンタインと小声でつぶやく。
やはりというべきか、シュウにその言葉は届かなかったようだ。タイン? 小首を傾げて尋ね返してくるシュウに、バレンタイン。重ねて口にすると、ようやくマサキの意図が掴めたようだ。微かに瞠目したシュウは、マサキの思いがけない行動に驚いているのだろう。あなたが、私に? と、意外そうに声を上げた。
「いいから受け取れよ。そして中を見ろ」
金のリボンをかけた白い小箱をシュウに押し付けて、マサキはそっぽを向いた。気恥ずかしくてシュウの顔を見ている余裕がない。慣れないことなんてするもんじゃない。そう思いながらも、時間をかけて選び抜いたプレゼントを彼がどう受け止めるのかを見たい気持ちもある。
高鳴る鼓動。息を詰めてシュウの反応を待つ。
これは美しい。やがて声を上げたシュウに、マサキは顔を元の位置に戻した。小箱の中からマサキのプレゼントを抓み上げているシュウは、意外にも柔和な笑みを湛えている。日頃、判で押したような表情ばかりをしてみせる男にしては、圧倒的に豊かさを感じさせる表情。きっと、マサキからのプレゼントを気に入ってくれたのだろう。マサキはシュウの表情に、ほっと安堵の息を吐いた。
「これはアメジスト? それともローズクォーツ?」
細かい細工が施されたカラーピン。鷲をモチーフとした金色のエンブレムには薄紫色の石が嵌め込まれている。シュウの瞳の色にも似た紫水晶の煌き。マサキがひと目見てこれだと感じたカラーピンは、窓から差し込むラングランの太陽の光を受けてきらきらと輝いていた。
「アメジスト。お前に似合うと思ってさ。それだったら衣装も合わせ易いだろ」
「あなたが自分で選んだとは思えないプレゼントですね、マサキ。とても気に入りましたよ。丁度、礼装に合わせるピンを探していたところです。これを付けることにしましょう」
でも、とシュウは続けた。
「バレンタインのプレゼントというのであれば、チョコレートも用意して欲しかったところですね」
「作ったんだよ。でも……」
喜ばせた後に口にするのには不都合な事実。それを思い出したマサキは口籠った。
「その、消し炭になっちまって……」
魔装機の面々にばれないようにこっそりと、夜更けにひとりで挑戦したチョコレート作り。本屋で買ったレシピ集に目を落としながら格闘すること一時間。初めてのチョコレート作りは、散々な結果に終わった。
真っ黒な塊。試しに口にしてみれば、ぼそぼそとした食感な上に、水っぽい味がする。
流石にこんなものをシュウに渡す訳にはいかない。味覚の正常なマサキは、だからこそバレンタインのメインディッシュであるチョコレートを諦めて、カラーピンだけをシュウに届けることにしたのだ。
「あなたらしい」
マサキの言葉を聞いたシュウの口元が綻ぶ。けれどもそれは嫌味でも皮肉でもない。ただただ微笑ましい。そう感じている二つの瞳。来年こそは期待していますよ、マサキ。シュウはそう言葉を継ぐと、マサキからのプレゼントであるカラーピンを、これ以上となく大事そうに白いプレゼントボックスに収めてみせた。
ワンドロ&ワンライお題ったー
それでは60分一本勝負、今から5分後にスタートして下さい。