わわ。と慌てた声が思わず口を衝いて出た。
不意に巻き起こったつむじ風に、マサキの近くを歩いていた女性のスカートが派手に吹き上がった。白いドロワーズ。バルーン状に彼女の足を覆う白い布にマサキが気を取られた次の瞬間、何事もなかったかのようにつむじ風が止んだ。
ふわり、と落ちてくるスカートの布が、ドロワーズを覆い隠す。一瞬の出来事は、夢幻と云われれば信じてしまいそうになるまでに、儚い記憶しかマサキの脳裏に残してはくれなかった。だというのに、彼女は何事もなかった――では済ませられなかったようだ。ぺたりと地べたに座り込んだ彼女に、マサキはどうすべきか悩んだ。妙齢の女性である。スカートの中身を衆目に晒してしまった彼女の胸中は想像するに余りあったものの、見て見ぬ振りをしてやるべきなのか。それともひと声かけてやるべきなのか。思い悩んでその場に留まるマサキとは裏腹に、周囲の人間たちは前者でいようと決断したようだ。誰も彼もが不自然に視線を逸らしては足早に去ってゆく。それが彼女の羞恥心を更に煽ってしまったようだった。耳まで真っ赤に染まった彼女の顔は、今にも泣き出してしまいそうなまでに歪んでしまっている。
何が出来るかはわからないが、このまま彼女を放置してもおけない。
そう考えたマサキが覚悟を決めて一歩を踏み出した瞬間だった。ふわりと空気が肩を撫でた。何だ、とマサキが視線を動かせば、どこに潜んでいたものか。すらりとした長躯が印象的な男が、ゆったりと。未だに立ちあがることも出来ずにいる彼女へと迫ってゆく。
よもや見ず知らずの女性に恥の上塗りをさせることもあるまい――とは思うも、どうかすると余計な口をききかねない男。割って入るべきか。それとも。考える間もなく女性の目の前に立った男が僅かに身を屈める。次いでそうっと差し出される手。立てますか――男が一切の感情を排した声を放つ。
気障ったらしい。マサキは男に鋭い視線を飛ばさずにいられなかった。
どちらかと云えば無表情にも映る横顔。決して愛想がいいとは云い難い。けれども彼女にとって、突如として目の前に現れた男は、誰も彼もが白々しく視線を逸らしてゆく中にあったからこそ、そのいたたまれなさを和らげる救世主たり得たようだ。
はい、大丈夫です。男の言葉に力強く頷いた彼女は、差し出された手を取って静かに立ち上がると、頭三つは差のある長躯に対して深く頭を下げ、つむじ風が引き起こしたハプニングなどものともしない様子で歩き出した。
「あなたはもう少し、女性の扱いを覚えた方がいいのでは?」
その背中を暫く見送っていた彼が、やおらマサキを振り返って口にする。
「わかってるけど、見えちまったし……」
気まずさを押し隠すように目を逸らしてマサキが云えば、「そういう態度が善くないのですよ」彼は微かに眉を顰めてみせると、次は上手く立ち回るのですね。そう言葉を残して去って行った。
ワンドロ&ワンライお題ったー
@kyoへの今日のワンドロ/ワンライお題は【ラッキースケベ】です。