公園にて

 天気がいいから外に出ましょう――と、マサキを誘ってきたシュウの志向性を、マサキは安く見積もっていたようだ。
 公園の広場に停まっているキッチンカーで自分と彼の分と、ホットドックをふたつ購入してベンチに戻ったマサキは、ほらよとそれをシュウに差し出してやりながら、最早定位置と化している彼の左隣に腰掛けた。
「これはどうも」
 一瞬たりとも顔を上げずにホットドックを受け取ったシュウの膝の上には、大判の辞典と思しき本が広げられている。
 片手で本を捲りながらホットドックに齧り付いた彼に、そういう性質の人間であると理解していても溜息を吐くのを止められない。マサキは「あのよー……」と、シュウの顔を覗き込んだ。
 公園に来たはいいものの、延々こうだった。ベンチに座っての読書。その間、マサキとした会話は数えるほどでしかないのだから、それは溜息のひとつや愚痴のひとつも吐きたくなる。
「もうちょっと、こう、他のことをしようとは思わないのか」
「他のこと、ですか」
 彼の家にいる時と何ら変わることのない時間。これならむしろ外に出ない方が、まだテレビやラジオに逃げられただけ良かったとも云える。
「外だぞ」
「そうですね」
「読書以外にもやることあるだろ」
「例えば」
「その台詞が出てくる時点で、お前に何の期待も出来ないことがわかった」
 マサキはホットドックのパンの端を小さく千切った。足元に放り投げると、噴水の周りの闊歩していた鳩たちが寄ってくる。餌の奪い合いを始めた鳩たちに、次々と千切ったパンを投げてやる。それが一段落ついたところで、マサキは大分端が欠けてしまったホットドックにかぶりついた。
「しかし、太陽の光を浴びるのは身体の為には必要な行為ですからね。骨の健康には欠かせない」
「そういう話じゃねえよ」
 ここまで合理的且つ一定の志向性に向いていると、呆れるを通り越して妙な笑いが浮かんでくる。マサキは自分でもぎこちなさを感じながら笑った。どうしてこんな男と付き合うに至っているのか――自分でも良くわかっていない謎に、少しの間考えを巡らせたマサキは、面白くない理由ばかりが浮かんでくる脳内に即座にやめたと声を上げた。
「遊んでくる」
「何処で誰と」
「親みたいなことを云うんじゃねえよ」
 ベンチから立ちあがったマサキは、向かい側で地面に書いた線の上を飛び回っている子どもたちに近付いていった。
 俺も混ぜろよ。と云えば、子どもたちはマサキが誰であるかに気付いたようだ。サイバスターのお兄ちゃん! 一斉に無邪気に声を上げて喜色満面、遊んで遊んでと迫ってくる。このぐらい可愛げがありゃあいいものを。ベンチに座ってこちらを眺めているつれない男をちらと窺ったマサキは、「よーし! プロペラだ!」と、手近な子どもをひとり抱えて、その場をぐるぐる回った。
 わあわあと起こる歓声。
 あたしも! ぼくも! と、次々にねだってくる子どもたちの波に、「順番な、順番」そう云ってマサキはひとりひとり交替に抱えては回るを繰り返した。
 時々、回る視界の奥にシュウの姿が入り込んでくる。流石に鷹揚に読書とはいかない気分であるのか、ホットドックを食べながら、マサキと子どもたちを眺めている。膝の上の本がとうに畳まれている辺り、マサキの機嫌を損ねたとでも感じたのだろう。
 ――だったら最初から、ひとりで愉しむのを止めろってんだ。
 そう思いながら子どもたち全員を回し終えたマサキは、「おい、シュウ! お前も来いよ!」続けて今度は目隠し鬼だと子どもたちを促しながらシュウを呼んだ。
 やれやれといった表情でシュウが腰を上げる。
 自分からマサキと能動的に何かをする為に提案を行うことが少ない男は、けれどもマサキの提案には出来る限り付き合ってくれる。それが時々、物足りなくも、そして有難くも感じられるマサキは、「お前ってホントにわからない奴だよな」子どもたちの輪に混じって立ったシュウに笑いかけた。