「何、してんの……?」
温暖な気候が常のラングランにしては、珍しくも陽射しがそこそこ強い日のことだった。街角で仲間の姿を見付けたミオは、出し抜けに目に飛び込んできた彼の体勢に声を出さずにいられなかった。
広場にあるベンチは、午後を迎えたからか。人けはまばらだ。
そんな中。足をベンチの座板に伸ばして、ぴったりと。背中をシュウにくっつけているマサキは、むっと押し寄せてくる熱気が耐え難いのか。ソフトクリームを手にしている。そのマサキと背中を合わせて座っているシュウの位置はベンチの端。きっちりと両足を地面に着けてはいるものの、彼もまた、マサキ同様ベンチの正面を向いてはいない。
相当に奇異である。
ふとマサキがシュウに何事かを話し掛ける。口の動き方からして、暑い。とでも云っているようだ。
対するシュウは、マサキの言葉を聞いているのかいないのか。膝に置いた本から顔を上げることがない。それに焦れでもしたのだろうか。おもむろに身体を起こしたマサキが、ソフトクリームを片手にしたまま、シュウの首に腕を回して凭れかかる。
そのソフトクリームをシュウが舐めたところで、ミオの我慢は限界を迎えた。
どれだけふたりの付き合いに寛容なミオであっても、公衆の面前で――と思わずにいられないふたりの姿。王都から離れた街とはいえ、度胸がいいにも限度がある。ずんずんずんとベンチに迫ったミオは、何してんのよう。と、ふたりに話し掛けた。
「暑いんだよ」
「それはわかるけど、そんなにぴったりくっついている方が暑いでしょ」
「その通りですよ、ミオ。ほら、マサキ。あなたの体温は高いのですよ。いい加減離れてはいただけませんか」
「いーやーだ」
暑さが彼の思考能力を奪ってしまったのだろうか。駄々を捏ねるように言葉を吐くと、更にシュウにしがみ付いていくマサキに、ミオとしては唖然呆然。これがあの鈍感な一匹狼だったマサキの成れの果ての姿かと思うと、いやはや恋は人をここまで変えるのか――と、思わずにいられない。
「あたし、今になってようやくお邪魔虫って言葉の意味がわかった気がする」
「そういうんじゃねえよ」
ソフトクリームを口にしたマサキが、その冷たさに表情を緩ませながら続けた。
「こいつの体温は低いだろ。だから、こうしてると気持ちがいいんだよ」
「そういう問題!?」
たったそれだけの理由にしては、異様な距離感。きっと、鈍感なマサキは自分がそこまでしてシュウにくっついていたい理由もわかっていないに違いない。そんなことを思いながら、なんだと口ではいいつつも幸せそうなシュウを横目に、ミオは早々にその場を退散することにしたのだった。