星を数えていた。
今ではもう数を少なくした銭湯に入ってみたいと、シュウが珍しくも自ら要望を口にしてみせたものだから、そういうことだったらと、マサキは彼とふたりでグランゾンに乗って地上に出た。暫く訪れぬ内にまた街並みを変えた下町。ひと晩幾らのビジネスホテルに宿を決めたマサキとシュウは、徒歩で十分ほどの銭湯を目指して、夕闇に街灯が点々と浮かぶ住宅街の路地を歩いた。
桜に富士。壁に描かれたペンキ絵をシュウはいたく気に入ったようだった。温泉とはまた違った風情がありますね。異国の香りを漂わせるシュウの風貌は、辺りの利用客の目を引いたようだ。兄ちゃん、こういう風呂もいいもんだろ? 仕事帰りにひと風呂浴びるのが日課らしい建設業の親方は、日に焼けた黒い肌の下から白い歯を覗かせて笑った。
番台に立つ老女。既に娘夫婦が経営を継いでいるらしい。あたしは偶にしか番台に立たないけど、よければまた来ておくれ。きっとその見た目から観光客と思われたのだ。冷えた瓶牛乳を振舞ってくれた老女は、またねと云いながら、手を振ってふたりを見送ってくれた。
その帰り道にふと芽生えた悪戯心。どちらが先にホテルに着くか競争しようぜ。何か物を云いたげにしていたシュウは、それでもマサキの提案を受け入れてくれた。
道が二手に分かれている角でシュウと別れたマサキは、夜空に瞬く星を数えながら見知らぬ道を行った。遠くに煌めくホテルの窓明かり。きっと方向音痴を案じていたのだろう。物を云いたげだったシュウの顔を思い返しながら、でも――と、マサキはシュウには秘密にしているあることに思いを馳せた。戦場であろうと迷い彷徨ってみせるマサキは、シュウの許を訪れるのに迷ったことは一度もなかった。それどころかシュウと出かけた先で、彼とはぐれたことさえもない。
そこはやはり恋人が絡むからこその奇跡なのだろう。
だからマサキは案じていなかった。きっと会える。そう信じて満点の星空の下、ぽつぽつと街灯が路上を照らしている道を行く。
そうして二つの道が再びひとつとなる角で、マサキは自らの影がシュウの影と重なり合うのを目にした。ほら、重なった。顔を上げたマサキは、安堵に表情を緩ませているシュウの顔を見上げて、絶えることなく続く奇跡に自信を深めながら自らもまた顔を綻ばせた。
あなたに書いて欲しい物語2
kyoさんには「星を数えていた」で始まって、「ほら、重なった」で終わる物語を書いて欲しいです。静かな話だと嬉しいです。