Sweet Candy

 街に出てふたりで通りを散策していたその最中。流行ってるんだよ。そう云ってマサキが足を止めた店の軒先には、カラフルなキャンディが詰まった大振りの瓶が、色鮮やかなプラントスタンドに並べて置かれていた。
「プレシアが大好きでさ。土産に買って帰ると凄え喜ぶんだ」
 大量に人が押し掛ける訳ではないが、通りを往く人々が次から次へと、足を止めてはお気に入りの一粒を購入してゆく。
 客が途切れることのない繁盛店。その人だかりの中に潜り込んで行ったマサキが、程なくして、購入したキャンディを詰てもらったらしい紙袋を小脇に戻って来ると、ほらよ――と、包みを開いた飴をシュウの口の中に押し込んできた。
 ミントグリーンとオレンジのマーブルカラーの飴は、見た目そのままの爽やかな味がする。
 粒は大きいが、甘さは控えめ。このぐらいの甘さなら食べきれそうだと、口に入れてしまったキャンディをシュウが舐めていると、人に押し付けてきた割には自分は食べないつもりらしい。どうだよ? と、大通りの散策を再開しながらマサキがシュウの顔を覗き込んでくる。
「美味いだろ?」
「さっぱりとしていて、食べ易い味ですね」
「そうそう。あんまり甘過ぎないのがいいらしくてさ……」
 早速と店に立ち寄った割には『らしい』などという解せない台詞を吐くマサキに、どういうことかとシュウが尋ねてみれば、彼としてはもっと甘い方が好みらしく、これまで三粒ぐらいしか舐めたことがないらしい。
 それも最後に口にしたのが三週間ほど前ときたものだ。
 その程度の記憶でシュウの口にキャンディを放り込んでこようなどいい度胸をしている――シュウはマサキに手にしている紙袋の中のキャンディを食べる気はないのかと尋ねた。家に帰って、気が向いたらな。それはプレシアに勧められれば食べるという意味であるのだろう。
 義妹に甘い義兄は、彼女のお願いにはとことん弱い。
 ならば――と、シュウは半歩先を往きながら、通りに面している店をそぞろ眺めているマサキを呼んだ。
 何だよ。と、振り返ったマサキを手招く。ほら、と声を掛ければ、何か興味をそそるものがあると思ったらしい。足を止めたマサキの顎を指の端で持ち上げたシュウは身を屈めた。そして重ね合わせた口唇の隙間から、その口内へとキャンディを押し込む。
「ば……っ。お前、何考えて……ッ」
 飛び退くようにシュウから身体を離したマサキが、頬を朱に染めながら口唇に手の甲を当てる。続けて、辺りを窺うように視線を左右に滑らせたマサキに、シュウは何事もなかったかのように笑いかけた。
「どうです、マサキ。美味しいでしょう?」
 うう、とも、ああとも付かない声がマサキの口から洩れる。
 けれども、特に騒ぎにもならない通りに、過ぎてしまったことを蒸し返しても仕方がないと思ったのか。それともあまりの事態に、思考が上手く働かなくなったのか。少しもすると、口の中でキャンディを転がし始めたマサキが、「これは美味いな」と、納得いったような表情を浮かべた。